第1話_初夏、小社にて

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「今日はこれくらいにしましょう」 葉月(ハヅキ)が参加者たちを集めて締めの挨拶をすると、解放されたように子どもたちが歓声をあげながら隣接するシャワー室へと走っていく。そのまま直帰する者もいるが、夏場になると大体の生徒はそこで汗を洗い流してから帰宅していく。 葉月の方へすまなそうに会釈しながら子どもたちの後を追う保護者たちを見送り、葉月と蒼矢(ソウヤ)は道場内の整頓をし、頃合いを見計らってからシャワー室へ向かう。 「急に暑くなったから、堪えるねー。僕汗びっちょだよ。…蒼矢はあまり汗かかなそうでいいなぁ」 「いや、かきますよ…この時期はシャツ凄いんですよ」 「あぁ…、君は難儀だよね。"刻印の位置"が見えやすいから」 誰もいなくなったシャワー室へ入ると、二人は銘々に道着を脱いで裸体を晒していく。 蒼矢が道着の肩口を外し、シャツを脱ぐと、彼が胸元を隠す理由(・・)があらわになる。 左胸やや上の、握り拳大の水滴の意匠。白い肌に浮かぶ濃い青の文様が、鮮やかなコントラストを描いている。 そしてそれと同じようなものが、葉月の背中、両肩甲骨中央あたりにもあった。風をモチーフにしたような深緑の文様は、緩くまとめたお団子が解かれると、背中に落ちた長髪に隠れる。 一見すると刺青かボディペイントにしか見えないが、断じてそれらではない。『刻印』と呼ばれるそれは、彼らの意思とは無関係に"あるきっかけ"をもって自然に浮かびあがって出来たものだ。 「…案外重大なネックだよね、これ(・・)」 「そうですね…誤解を生むというか、言い訳できないですからね」 「高校ではどうしてたの? 着替えとか。あ、プールの時は?」 「幸い水泳の授業はありませんでした。着替えは…トイレとかで。烈は絆創膏並べて貼ってたみたいですよ」 「あはは、いつも同じとこ怪我してるんだ! かぶれそう」 「葉月さんはどうしてたんですか?」 「常に壁を後ろにしつつ着替えてたかな。水着は指定なかったから、ウェットスーツにしてたよ。なんだか泳げそうな印象持たれちゃってたなぁ…実際はカナヅチなのにね」 それぞれの個室シャワールーム越しに、『彼ら』特有の暴露大会が繰り広げられていた。
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