第13話_灼熱の拳

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(ロードナイト)はきびすを返すと、急ぎ蒼矢(アズライト)の元へかけ寄る。 「アズライト…っ、蒼矢、蒼矢!!」 しかし声をかけても身体を揺り動かしても反応を見せず、薄く開いていた目も閉じられ、完全に意識が飛んでいるようだった。 アズライトの容態に狼狽え始めるロードナイトへ、エピドートが後方から声をかける。 「ロード! 装具を!!」 「! あぁ、あっ」 「こっちはいいから、早くアズライトを!! 『転異空間』が閉まってしまう」 エピドートに促されたロードナイトは、少し離れたところに突き刺さる『氷柱(ツララ)』へ振り返った。 氷柱は、いつの間にか自らが噴出しただろう氷塊で覆われ、触れることすらできなくなっていた。 実際のところ既に相当な体力を消耗していたが、ロードナイトは再び力を振り絞って『熱の力』を使い、周りの氷塊を溶かしていく。 やがて顔を出した大剣の柄を掴み、思い切り引っ張った。 「…ぬ゛うぅぅ~…!!」 しかし、その巨大な刀身の全てが埋まってしまっている氷柱はびくともしない。 弾む息を一度落ち着かせ、再び渾身の力を込めて引っ張る。しかしやはり動きがなく、大剣は涼しい顔で地面に埋まっている。 「やっぱり…アズライト以外は受け入れねぇってことか…?」 「……!」 影斗(オニキス)とエピドートが見守る中、ロードナイトは汗をふき出し、顔を真っ赤にしながら踏ん張り続けた。 「っ…このぉぉぉ!!!」 「…ロード、一旦落ち着いて!」 「でもっ…蒼矢が!!」 「本来、熱は氷と相性が良いはずなんだ。水が炎と相性が良いように。…冷静に君の『熱』を氷柱に送ってみて欲しい」 振り向き、思わず泣きそうになる彼へ、エピドートはつとめて冷静に、ゆっくり頷いてみせる。 アドバイスを受け、ロードナイトは深く息を吐き出した後表情を戻し、柄を掴む手へ意識を集中させ始めた。 …頼む、蒼矢に戻ってくれ……!! すると、彼の意思に呼応するかのように手のひらから『灼熱』の力が溢れ出し、徐々に刀身へと伝わっていく。 やがてゆっくりと地表が崩れ、ロードナイトの手により大剣が引きずり出されていった。 依然としておよそ人の手に扱えない重量の氷柱をなんとか抱え、ロードナイトはアズライトの元まで戻り、横たわる彼の傍に並べるように、剣を地に置いてやる。 すると、祈る彼の眼前でアズライトの左胸に浮かぶ刻印が淡く光を帯び、それに呼応するように再び刀身が青白く光り始めた。そして徐々にその実体は薄れ、氷の粒子となって刻印に吸い込まれていった。 「……!!」 ロードナイトが見守る中、アズライトの長い睫毛が一瞬震え、閉じられていた目が薄く開く。 ぼんやりと力無さげだったが、その双眸には確かに光が戻っていた。 「っ…、蒼矢……!!」 感極まったロードナイトは、思わず抱き起こして胸に寄せた。 起き抜けに羽交い締めにされたアズライトは、状況についていけずわずかに戸惑うような表情をにじませる。 そんなふたりの様子に、エピドートとオニキスも息をついて安堵した。 「…無事帰還出来そうだな」
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