最終話_気付かれた形

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最終話_気付かれた形

旅先で予期せぬ戦闘を繰り広げた一行は、疲れ果ててはいたものの遠出してろくな思い出もなしに帰路につくのはあまりにむなしかったので、帰りがけに道の駅へ寄って遅めの昼食をとった後、散歩がてら近場の展望台へと向かった。 「ロープウェイ乗りたかったぁ! 背中痛いぃ、腰痛いぃー!!」 「山まで行く時間ねぇんだから文句言うな、黙って歩け」 「道の駅戻ったらお土産買ってあげるよ。ご両親の分と、君の分ひとつずつね」 「マジで!? やりぃ!」 文句垂れながら歩く(アキラ)を物で釣りつつ、展望台へと続く登山道を進んでいく。 到着すると丁度空いているタイミングだったのか五人以外にひと気はなく、"伊東八景"と呼ばれる絶景を貸し切ることができた。 「すげー!! 眺めいい!!」 「満足してもらえたようで…」 「あーあ。とんだ旅行になっちまったな」 興奮を溢れ出させスマホで景色を撮る陽を眺めながら、影斗(エイト)は展望台の柵を背もたれにし、ため息まじりにつぶやく。 「またゆっくり来ようよ。今度は2,3泊して神社巡りしたいなぁ。反射炉も見たかったし…あ、もちろん僕はいつ誘ってくれても行けるからね!」 「暇人だなー、お前」 早くも次回旅行へ思いを馳せ始める葉月(ハヅキ)へ呆れ顔を見せつつ、影斗は(レツ)へ振り返った。 「…まぁ収穫もあったな。『後発属性』使えるようになったし」 「! あぁ…」 「そうだね。…いやぁ助かったよ、タイミングばっちり」 満足気に同意する葉月を見、蒼矢(ソウヤ)は驚いたように烈へ視線を送る。 「? いつ…?」 「あ…あぁ。お前が気ぃ失ってる間? かな」 話を聞きつけ、写真を撮り終えた陽もリアクション大きめに走り寄ってくる。 「兄貴も後発出せるようになったの!? いいなー、どんなの?」 「『灼熱』は今回は攻撃技っぽく使ってたけど、本来は防御技だね。『ロードナイト』は元々攻撃が主だけど、『灼熱』が加わることで攻守どちらも出来るようになるよ。…防御の駒が増えて、僕としても助かるよ」 「へー」 「まぁロードナイトの後発能力は、どいつであれほぼ100%発現するけどな。なんなら発現も遅いし」 「ちょっ…影斗!」 素直に感心する陽の前で影斗に横槍を入れられ、烈が恥ずかしさをごまかすようにがなった。 「葉月の話だと、先代(前の奴)は2,3年で使えてたみたいだぜ。えーと、お前は今年何年目だっけ…」 「言うなってー!!」 「まぁまぁ。遅咲きかもしれないけど、先はまだ長いんだからいいじゃない」 からかう影斗と彼に掴みかかろうとする烈を眺めながら、葉月はフォローを入れた。 同じように目で追いつつ、隣から蒼矢が問いかける。 「…きっかけはなんだったんでしょうか」 「うーん、いつもこれといって断定はできないんだよね。君の場合は一度失ったのが起因したのかもしれないし、先代だとまた違ったりするし。…強いて言うなら、"思いの強さ"かもしれないね」 「"思い"ですか…」 「なににせよ良かったよ、今回で発動してくれて。万事休すだったからね!」 「…そうですね」 葉月と蒼矢の会話の傍らで、陽が悔しそうに眉根を寄せながら拳を握った。 「くっそー、俺も早く使えるようになりてぇ!」 「いやぁ、君はさすがにしばらく先だよ。まだセイバーになって半年も経ってないしね」 「ちぇーっ。あっ、『サルファー』の後発ってどんなの? 格好いい?」 「あぁ、あれは結構また特徴的でねぇ…」 葉月と陽のやり取りを背に、蒼矢は烈に近づいていく。
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