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第2話_旅行計画
「おや…」
着替えを終え、さっぱりとすがすがしい表情で玄関へと戻る葉月と蒼矢の視線正面に赤いカラーリングのバイクが停められているのが見え、玄関へと折れると引き戸前に首にタオルをかけた男が、長い脚を投げ出して座り込んでいた。
「よっす! 稽古お疲れさん」
「烈…! いつからいたの? ごめんね、今開けるからね」
「いやいやおかまいなく。さっき来たばっかっすから!」
額に汗をにじませながら、花房 烈はふたりへニカッと笑いかけた。
あわてた風に引き戸に鍵を挿す葉月の後ろで、蒼矢は尻をはたきながら立ち上がる烈を見上げる。
「…道場の方来ればいいのに」
「邪魔しちゃ悪いと思ってさ。そんな大それた用でもねぇし…あぁ葉月さん、俺すぐ帰るから、ほんと」
「お茶くらい飲んでいきなよ。帰りに手土産持たせるから」
「…すんません!」
葉月に居間へ通され、遠慮がちに荷物を端に置く蒼矢の横で烈は畳にどっかり胡坐をかくと、丸テーブルに突っ伏した。
扇風機しか回っていないが、網戸越しに心地良い外気が届く。
「っあー、生き返る」
「くつろぎ過ぎだろ…」
「あ、母ちゃんに連絡しとかねぇと…」
「店は今日は忙しくないのか?」
「うん、この暑さじゃ客足も遠のいててさ。配達も今日は昼の内に片付いたし」
花房家は酒屋で、仕入れの選別や会計は主に烈母が、表使いや配達は主に烈が担い、二人三脚で切り盛りしている。
基本忙しくはあるものの、店仕舞い近くのこの時間になればわりと体もあけやすいので、母に頼んで店を抜け出てきたようだ。酒屋からこの神社までの距離は近く、愛用のバイクでならトロトロ走っても10分もかからない。
葉月が麦茶と茶菓子を盆に乗せて居間に入る。
グラスを受け取るなり、烈は喉を鳴らしながら一気に麦茶を飲み干した。
「蒼矢に用だったの?」
「うん、今日稽古行くって聞いてたもんで」
「そっか。僕は席外しといた方がいいかな?」
「いやいやいや、葉月さん宛でもあるんだから、座って下さいよ!」
空になったグラスにおかわりを注いでやり、そのまま中座しかける葉月をあわてて呼び止め、烈はスマホの画面を向けた。
「今度の土日、ツーリングがてらここ泊まろうって影斗と話しててさ。ふたりどうかなって」
葉月と蒼矢はスマホの画面に顔を寄せる。
「…伊豆かぁ。いいね、僕学生の時以来だなぁ」
「蒼矢は行ったことないだろ?」
首を縦に振る蒼矢と興味深げに画面をスクロールする葉月の反応を見、烈は満足そうな笑みを浮かべた。
「予定はどう?」
「僕は大丈夫だよ!」
「…俺もいいよ」
「良かったー。あ、葉月さんは車出して下さいね」
「わかってるよ、足でしょ?」
「影斗が市場もいくつか巡ってみたいらしくて、葉月さんは車必須だそうっす」
「僕っていうより車なんですね…」
「すんません! 行き帰りはもちろん、俺と影斗はバイクで行くんで」
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