ササヤカな栞

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ねぇ、覚えてる? 遠い昔に交わした約束。 おとぎ話に出てくるお城みたいな建物から 伸びた階段の脇に小さな噴水があって 昼間でも色とりどりにライトアップされるのを 道を渡った広場から眺めていた。 街の真ん中にある結婚式場。 純白のウェディングドレスを着た新婦と 薄いグレーのタキシードを着た新郎が 開け放たれたドアの前でキスをして フラワーシャワーの中を降りてくる。 幸せそうに笑っている人たちを見て 幼い二人はシロツメクサの花冠を作る手を止めた。 緑の絨毯の上に白い花が揺れる。 「ノリちゃん、ボクと結婚しようよ」 「けっこんって何?」 ボクは噴水の前にいる二人を指差した。 「ああしてお城で一緒に暮らすこと」 「ふぅん?」 「大きくなったらボクと結婚しよう」 「いいよ」 「約束だよ?」 「うん」 「じゃあ、ユビワあげるね」 ボクはシロツメクサで作った指輪を ノリちゃんの小さい指に巻きつけた。 「ボクにもユビワちょうだい」 「いいよ」 「クローバーのがいいな」 「わかった」 ノリちゃんがクローバーで作った指輪を ボクの指に巻きつけた。 「みつばじゃなくてよつばのクローバーがいい」 「よつば?」 「これは葉っぱが3つでしょ」 「うん」 「葉っぱが4つあるのがよつばのクローバー」 「へぇ」 「レアなんだよ」 「これ?」 シロツメクサを巻いたノリちゃんの手に 四つ葉のクローバーが握られていた。 「すごい!ノリちゃん天才!!」 「ふふっ」 「ボク一回も見つけたことない」 「ほしい時はみつけてあげる」 「本当?」 「うん。ゆびきり」 ノリちゃんが指切りの歌を歌って 小指と小指を巻き付けた。
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