ササヤカな栞

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ねぇ、思い出して。 近い未来を描いた夢。 お城で結婚式を挙げる夢。 いつか 男の子と女の子が一人ずつ。 家族四人で暮らしている夢。 私と紀樹、二人で描いていた夢。 別れた日のサヨウナラで散った。 夢の欠片を集めたら また同じ夢を見られるのかな。 「泣いたらメイクが崩れるやろ」 紀樹がポケットチーフで私の涙を拭う。 「わかってる」 強く風が吹いて噴水に大きな虹が架かった。 「実結、綺麗やな」 眩しそうに見つめる横顔に何度も恋をする。 「虹が?私が?」 ふっと笑って「両方やな」と言った紀樹の 微かに濡れた茶色い髪に触れた。 変わらず好きと言ったら笑うかな。 それとも もう無駄だって言って困るのかな。 「実結?」 「紀樹……、私ね……」 「葉っぱついてるで」 髪に触れる手に胸が震える。 その指先に恋をしていた。 ずっと。ずっと。 入場曲が流れ始めた。 この式が終わったら 言葉の続きを聞いてくれるかな。 どうか、思い出して。 噴水の前の待ち合わせ。 指切りをして結んだ赤い糸。 運命の約束。 次に見つけたら結婚する? 「実結。これ四つ葉のクローバーやん」 紀樹が手首に触れる。 「本当だ」 幸せを見つけてくれたから。 真昼の月の下。 解けない魔法と醒めない夢の続きを 二人でもう一度。
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