ササヤカな栞

5/10
前へ
/10ページ
次へ
ねぇ、覚えてる? 儚くて拙い待ち合わせ。 「ふんすい見にいこう!」 「ノリちゃんは噴水が好きなんだね」 「でて、とまって、でて、とまるのが好き」 「ボクはキラキラ虹が見えるのが好き」 風が吹いて水しぶきが二人を濡らす。 「きもちいーね」 「うん」 「あしたも見ようね」 「ボクは明日は見れないの」 「どうして?」 「お引っ越しするから」 遠くに行っちゃうってこと?と言って ノリちゃんは悲しい顔をした。 「ボクがまた遊びに来るよ」 「もうすぐノリちゃんもおうちに帰るの」 「ノリちゃんちも遠いの?」 「うん」 おばあちゃんの家から自分の家に帰ると言って ノリちゃんは寂しい顔をした。 「じゃあ、待ち合わせしよう」 「まちあわせ?」 「いつどこで会うっていう約束だよ」 「わかった」 「お昼。噴水の前」 「うん。ゆびきり」 ノリちゃんと一緒に指切りの歌を歌って 微かに濡れた茶色い髪の水滴に触れた。 陽の光に反射してキラキラ光っている。 まるでお姫様の冠みたいだ。 「おばあちゃんになっても待ってるね」 「おじいちゃんになってもまってるね」 指切りの約束は、絶対の時にするんだよ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加