ササヤカな栞

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もう、忘れてしまったかな。 いつまでも待つと言った噴水の前。 ピンポーン。 インターホンが鳴った。 玄関のドアを開ける。 「アイコ、いらっしゃい」 「お邪魔しまーす」 「私の部屋に上がって~」 母に友達が来たことを告げて片付けを中断した。 アイコは秋に結婚式を挙げる予定で 私はブライズメイドという式をお手伝いする 介添人をやって欲しいと頼まれている。 「本当に私でいいの?」 他の子と比べて友達歴は短い。 「もちろん。他の仲良い子は私より背が高くて写真映えしないから」 「なるほど(笑)」 「実結の髪型は今のままショートボブ?アップにする?」 明るめブラウンのショートヘアに ふんわりパーマをかけている。 「長さが足りないからこのままだよ」 物心ついた頃から黒髪ストレートロングで 元カレに失恋した時にバッサリ切った。 彼は長い髪を触るのが好きだった。 「それならブライズメイドのドレスはエメラルドグリーンが似合いそう。ピンクとどっちがいい?」 「三十過ぎたらピンクより緑がいいよね」 「年なんてどうでも良くない?実結はどっちも似合うよ」 スマホでドレスの候補を見せてくれた。 「ありがと。んー、このエメラルドのドレスの方がデザイン的に好きかな」 「オッケー」 衣装を決めると当日の進行表を渡された。 郊外のガーデンウェディング。 池があって噴水の前に続くバージンロード。 「アッシャーが先に入場して宣誓台の所で待ってるから、実結も続いて入場して新郎新婦を迎えるの」 アッシャーとは新郎の介添人で 新郎の友達がやることになっている。 「責任重大だね」 「で、宣誓をした後に結婚証明書を私たちが記入するから、立会人のアッシャーとブライズメイドもサインしてお披露目」 人前式で神父も牧師もいないから 証明書の記入や指輪交換の段取りを 私とアッシャーが行う。 アッシャーは遠方に住んでいて当日までは 新郎新婦も顔を合わせないという。 雨が降った時のために 近くのチャペルで行う流れも確認した。 打合せが済んで片付けていると ヒラリと写真が落ちた。 アイコが手に取って 「この写真は実結?」と聞いた。 「そのモンチッチみたいなのが私」 「可愛い~」 「男の子みたいでしょ?」 「服はね。顔はやっぱり女の子って感じ」 「あはは。ありがとう」 「こっちの外国の王子様みたいな子は幼なじみ?」 「王子様?女の子だよ(笑)」 アイコが写真を見つめる。 「なんだ。実結の初恋の王子様かと思った」 「結婚する~って言ってたみたいだけど(笑)」 「ピュアな恋だね(笑)」 「そうだったのかも……」 幼すぎた私たちの約束の結末を どう迎えたのかさえ覚えていない。 噴水の前で手を振った? 不安に歪む悲痛な顔。 そんな顔、させたくない。 「実結、泣いてるの?」 「あれ?勝手に涙が……」 頬を流れる涙を手の甲で拭う。 「大切な思い出なんだね」 アイコがハンカチを貸してくれた。 「おかしいな。全然覚えてないのに」 「きっと心が覚えてるんだよ」 可愛すぎる初恋の王子様との別れの日も 私は涙を流していたんだろうか。 大切なことを忘れている気がした。
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