おかあさんのうた

3/6
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 今降り注いでいるあたたかな陽光のように優しい表情でそこまでを語った彼女に、静かに話を聞いていた男は、素敵なお話ですね、と言った。すると、それを聞いた彼女がふわりと花が咲くような笑みを見せる。  母がくれた子守唄は、彼女にとって本当に大切なものであるのだろう。そう思った男は、折角だから一から歌ってみせてくれないだろうかと彼女に頼んだ。先程はごく一部しか聞けなかったため、歌の全容が知りたかったのだ。  男の申し出に、彼女は少し照れた様子を見せながらも、構いませんよと快諾した。 「あまり歌が得意というわけではないのですが……、母の歌を誰かに聞いてもらえるのは、嬉しいですから」 「ありがとうございます。よろしくお願いします」  男の言葉に彼女は頷くと、ひとつ息を吸った。そして一拍置いてから、春の陽気に溶け込んでいくような優しい響きの旋律で、静かに穏やかに、歌を紡いでいく。  そうやって柔らかく空気を震わせた子守唄は、そう長いものではなかった。  歌い終えてそっと口を閉じた彼女に改めて礼を言いつつ、男はぐるりと考えを巡らせた。少しの思考を経て、恐らくは自分の想像通りなのだろうと納得してから、次いで彼女の母について尋ねてみる。 「お母様はどんな方だったのですか?」  そう訊けば、彼女は歌のことを尋ねたとき以上に嬉しそうな顔をして、母についても語ってくれた。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!