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ハッピーorアンハッピー
今日は結婚記念日。今年で8年目になるのかな。
スーツもヨレヨレになるくらい働いている。
ローンもないし、住む場所だって、比較的いい。
夫婦の仲だっていいはずだ。
会社から帰ってくると、洒落た小物を扱う店は軒並み閉まっている。
「夜11時過ぎじゃぁな」
コンビニくらいしか開いていない。
サービスは充実してきたといっても
コンビニで購入した品で、喜ぶ女性はあまりいないだろう。
フランス料理店でも予約できればベストなのだが、
あいにく明日だって仕事なんだ。
「妻には悪いが、これで我慢してもらおう」
「345円になります。あの、ご家族にですか?」
レジの女性店員はそう話しかけてきた。
「ああ。結婚記念日なんだ」
店員さんはニッコリと笑う。
「やっぱり。お客様、この時間によくいらっしゃるから。他のお客様には内緒ですよ」
ちょっとかがんで何か取り出したようだ。
「この辺でよろしいですか?」
Thanksと書かれたガーリーなシールを商品に合わせて見上げてくる。
「助かるよ。その位置で頼むよ」
シールを張り付けてにっこりと店員さんは微笑んだ。
「ありがとうございました」
このコンビニはことあるごとに利用しようと心に決めたのだ。
「ただいま」
ちょうど日付が変わった。いつもよりは帰りは早いが、真夜中だ。
妻だって仕事がある。
もう起きてはいないだろうなと思いながらリビングルームへいく。
「おかえりなさい」
妻は寝ぼけ眼で、やっと言い終えた。もう寝言に近い。
机の上にはノンアルコールビール、花柄の便せんとプレゼントが置いてあった。
「さすが俺の連れ合いだな」
起こさないようにささやくようにつぶやく。
俺が買ってきたのはミルクチョコレート12個入りのものとカフェオレ。
店員さんはいつも明日の朝用のブラックコーヒーを買っているから、家族へのものと思ったのだろう。
妻が残した便せんには
『私からの結婚記念日のプレゼント
寝る前にのむものではないから明日の朝飲んでね。
おやすみなさい。
これから先もどうかよろしくお願い致しますね。
今回の記念日には消えてしまうプレゼントだけど
ねぇ、覚えている?
お互いの好きなもの。
記念日以上に大切な記憶は消えないわよね。
誕生日だって
いつまでも忘れないでよ。
これから先もずっとよ』
俺の脳裏には昔の記憶がよみがえる。
あれは告白する前のデートの時だったろうか。
『私の好きなものはミルクチョコとカフェオレ!!
ぜったいお昼には欠かせないわ』
『甘すぎるだろ。俺は断然ブラックコーヒーだね』
恋人時代にはお互い譲れなくて口論になったものだ。
「忘れないよ。お前も忘れるなよ。
次は誕生日だな。その次は出会った日かぁ」
有給はまだ残っている。
次の時にはもっとちゃんとした贈り物ができるだろう。
妻のプレゼントが置いてあった場所に妻への贈り物を置く。
肩掛けをかけてやり、一言だけ囁いた。
「おやすみ」
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