この壁の向こうに(2/4)

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「……そうなの。おめでとう。お幸せにね」  驚いたのは事実だった。  けれどもう過去の──それも何年も前の話だ。  だからだろうか、ごく自然に、それも心からの祝福を口にすることができた。  それは彼女にとっても意外だったようで、その目が軽く見開かれる。 「……怒らないんですか?」 「え?」  今度は私が目を瞬く番だった。 「どうして私が怒るの?」  すると彼女は、逡巡するかのような一瞬の間を置いてから言った。 「……私が、森本先生から瀬尾先生を略奪したから」 「略奪?」  思わぬワードが飛び出したせいで、思わず聞き返してしまった。  けれど略奪なんて──いったいどこからそんな発想が出てきたのだろう。  私はあの後、自分から別れを切り出した。 「私、ほんとは瀬尾先生に言われるまでもなくわかってた気がします。お二人が付き合ってたこと」  静かに言う彼女に、返す言葉が見つからなかった。  もちろん、彼女が本当のことを言っているかはわからない。  でももし本当に知っていたのなら、遥平との関係は、隠すべきではなかったのだろうか。
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