21人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「……そうなの。おめでとう。お幸せにね」
驚いたのは事実だった。
けれどもう過去の──それも何年も前の話だ。
だからだろうか、ごく自然に、それも心からの祝福を口にすることができた。
それは彼女にとっても意外だったようで、その目が軽く見開かれる。
「……怒らないんですか?」
「え?」
今度は私が目を瞬く番だった。
「どうして私が怒るの?」
すると彼女は、逡巡するかのような一瞬の間を置いてから言った。
「……私が、森本先生から瀬尾先生を略奪したから」
「略奪?」
思わぬワードが飛び出したせいで、思わず聞き返してしまった。
けれど略奪なんて──いったいどこからそんな発想が出てきたのだろう。
私はあの後、自分から別れを切り出した。
「私、ほんとは瀬尾先生に言われるまでもなくわかってた気がします。お二人が付き合ってたこと」
静かに言う彼女に、返す言葉が見つからなかった。
もちろん、彼女が本当のことを言っているかはわからない。
でももし本当に知っていたのなら、遥平との関係は、隠すべきではなかったのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!