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この壁の向こうに(3/4)
「──お待たせしました。っていうか、本当はもっと早くに着いてたんですけど」
去って行く彼女の背中をぼんやり見つめていると、隣に立った人影がそんな言葉を発した。
その声の主が誰なのかは──確かめるまでもない。
「……ええ、知ってたわ」
待ち合わせの相手である彼──高城章宏がそばまで来ていたことには実際気づいていた。
私が彼女と話していたために、彼はあえて声をかけなかったのだろうということにも。
「さっきの、南さんですよね?」
高城くんはそう言って、彼女が去って行った方角に向かって目を細めた。
「……ああ、そういえば同級生だったわね。あなたと」
彼女も、この高城くんが委員長をしていたクラスにいたはずだ。
私は彼らのクラス担任ではなく教科担当にすぎなかったので、それ以上のことはもう覚えていないけれど。
「彼女、結婚するそうよ──瀬尾先生と」
さりげなさを装って言ってみる。
が、彼はさして興味もなさそうに「そうなんですか」と言うだけだった。
「……驚かないの?」
「驚きませんよ」
驚くわけがないだろう、と言わんばかりの響きを感じた気がして目を見張る。
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