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――8は偉大な数字なのだよ。横向きにしてごらん? 無限の数に早変わりだ。
「末広がりの8。どこまでも広がっていく、無限にして永遠の存在」
「そうだよ、はじまりもおわりも超越したのが、ぼくさ」
声が空から降ってきました。そして、空いていた位置にトンと着地します。
8時の精霊が現れて、ついに円が完成したのです。
手の中の懐中時計が光り、すべての数字があるべき場所に収まりました。
けれど、歯車は動き出しません。
まだ、時は止まったままなのです。
「カイロスさまは、怒っているんだ」
「カイロスさま?」
「時刻の神さまさ」
時の精霊たちが言いました。
ひとびとに時刻を告げてきたクロウの時計台。その役目を取り上げてしまうなんて、許しがたいことだと。
「新しい時計台だって、時刻を告げるんだ。たくさんのひとの耳に届くぐらい、大きな時計なんだよ」
「だが、それはもうクロウの時計ではない」
割り込んだ声は、大人の男のひとのものでした。夢の中で聞いた、あの声です。
マルコが声のほうを見ると、男のひとが立っていました。
「クロウが造って、大切に守ってきたもの。大事にしないヤツらなんて、時の狭間に閉じ込められてしまえばいいんだ」
言いきった声は強くて、けれど、とても哀しみに満ちたものでした。
マルコにはわかりました。
このお兄さんは、おじいちゃんが――クロウのことが、とってもとっても大好きなのだ、と。
時計を愛するクロウおじいちゃんは、自分が手掛けた時計台のことを、とても大切に愛していました。名前だってつけました。
マルコにだけ教えてくれたその名は、カイロス。
部屋のすみっこに、こっそりと名前が彫られていることを知っています。
古いものには精霊が宿るもの。
このお兄さんは、時計台の精霊なのだと思いました。
だから――
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