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「ぼくが守るよ」
「おまえが? なにを?」
「この時計台。立派な時計技師になって、ぼくがおじいちゃんになっちゃうまで、ちゃんと動くようにするから」
「それが本当になるって、どうしてわかる」
「わからないよ。ぼくにだって、わからない。だけど、カイロスは時刻の神さまなんでしょう? 今日も、明日も、ずっと先の未来も、ぼくが失敗したり成功したりする瞬間ひとつひとつが、あなたが司る時そのものだ」
お兄さんはため息をついて、肩をすくめます。
マルコは重ねて言いました。
「大きな時計台ができるからって、ここがなくなってしまうわけじゃないよ」
このあたりのひとにとっては、クロウ・トキツの時計台こそが、正確な時刻を告げる『神さまの声』なのですから。
「ならば、ひとまずはおまえに託してやろう、クロウの孫。我らをないがしろにするようであれば、すぐさま時を止めてやるからな」
カイロスが宣言したとき、足もとにいた精霊たちがひとりひとり浮かび上がりました。
薄暗い部屋の中、それはまるで星のように輝きながらカイロスの周囲を飛び回ります。
ガコン。
彼らが舞うごとに、歯車が動きだしました。
ゴトン、ガコン。
静寂が破られて、音が耳に届きはじめました。
大きな音におどろいたユキが、しっぽを太くして飛び上がり、部屋の外へ逃げていきます。
追いかけようとしたマルコの耳に、鐘の音が届きました。ぐわんぐわんと反響して、他の音がなにも聞こえなくなります。
「ぼく、がんばるから! みんな、見ててね!」
マルコは声を張りあげました。
大きな鐘の音におもわず耳をふさいだとき、誰かに背中を押されます。
足を一歩踏み出した途端、床が抜けたような感覚におそわれて、手足をバタつかせました。
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