マルコと12人の精霊

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 新しい時計台がお披露目される前の晩。おとうさんにお願いして、時計台にお泊まりをすることにします。  たくさんの毛布と、飲み水。  湯たんぽがわりに一匹の白猫を連れて、時計台へやってきました。  キリキリ、ガコン。  ゴゴゴゴゴ。  いろいろ音が聞こえてきます。  壁を背中につけるとわずかな揺れが伝わってきて、おなかのあたりにも響くような気持ちになりました。  一定のリズムをきざむ振動に揺られるうちに、マルコは夢の世界へ旅立ちました。  そこは、時計の国でした。  大きいもの、小さいもの。たくさんの時計が、チクタク音を刻んでいます。  時計の森を歩いていると、声が聞こえてきました。  なんだか怒っているようです。  なんてことだ、ちいさな時計台をなくしてしまうなんて。  これはうらぎりだ!  はんぎゃくだ!  思い知らせてやるべきだ!  癇癪(かんしゃく)を起こした小さな子どものような声のあと、大人の声が聞こえました。 「そのとおり。我々は彼らに知らしめてやらねばならぬ。時刻を告げる我らの大切さを」 「カイロスさま、ばんばーい」 「カイロスさま、ばんざーい」 「ゆけ、時を(つかさど)る精霊たちよ」 「アイサー!」  足もとを、なにかが駆け抜けていきました。  三角帽子をかぶった、小さな人形のようななにか(・・・)は、あっというまに消えてしまいます。  無人になった広場には、大きな柱時計がひとつ。  振り子が左右に揺れていますが、しんとして、さっきまでの賑やかさが嘘のようでした。  どうして、こんなに静かなのか。  マルコは気づきました。  秒針の音がすこしも聞こえなくなっているのです。  見まわしてみて、おどろきました。  時計の文字盤がまっしろになっているではありませんか。これでは何時なのかわかりません。
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