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新しい時計台がお披露目される前の晩。おとうさんにお願いして、時計台にお泊まりをすることにします。
たくさんの毛布と、飲み水。
湯たんぽがわりに一匹の白猫を連れて、時計台へやってきました。
キリキリ、ガコン。
ゴゴゴゴゴ。
いろいろ音が聞こえてきます。
壁を背中につけるとわずかな揺れが伝わってきて、おなかのあたりにも響くような気持ちになりました。
一定のリズムをきざむ振動に揺られるうちに、マルコは夢の世界へ旅立ちました。
そこは、時計の国でした。
大きいもの、小さいもの。たくさんの時計が、チクタク音を刻んでいます。
時計の森を歩いていると、声が聞こえてきました。
なんだか怒っているようです。
なんてことだ、ちいさな時計台をなくしてしまうなんて。
これはうらぎりだ!
はんぎゃくだ!
思い知らせてやるべきだ!
癇癪を起こした小さな子どものような声のあと、大人の声が聞こえました。
「そのとおり。我々は彼らに知らしめてやらねばならぬ。時刻を告げる我らの大切さを」
「カイロスさま、ばんばーい」
「カイロスさま、ばんざーい」
「ゆけ、時を司る精霊たちよ」
「アイサー!」
足もとを、なにかが駆け抜けていきました。
三角帽子をかぶった、小さな人形のようななにかは、あっというまに消えてしまいます。
無人になった広場には、大きな柱時計がひとつ。
振り子が左右に揺れていますが、しんとして、さっきまでの賑やかさが嘘のようでした。
どうして、こんなに静かなのか。
マルコは気づきました。
秒針の音がすこしも聞こえなくなっているのです。
見まわしてみて、おどろきました。
時計の文字盤がまっしろになっているではありませんか。これでは何時なのかわかりません。
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