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6と4の数字が戻った懐中時計を持って、マルコは外へ出ました。
肩かけカバンのポケットからは、ふたりの精霊が顔を出しています。
つぎはどこへ向かえばよいのでしょう。
「そうだなあ。3時のやつはお菓子が大好きだから、そういうところに隠れているんじゃないかな」
「10時も一緒にいるんじゃないのか? あいつらはいつもお菓子を食べて休憩してる」
6時と4時がそう言うので、マルコはケーキ屋さんへ向かいました。
パステルカラーのペンキも、暗い空の下ではなんだかさみしいかんじがします。
窓にはレースのカーテンが引いてあって、中が見えません。そっとドアを押してみると、扉が開くではありませんか。
おじさん、ごめんなさい!
心のなかで謝りながら、マルコは店内に足を踏み入れました。
ケース脇の棚には、日持ちのするクッキーやパウンドケーキが袋に入っていくつも並んでいます。おいしそうなお菓子を見ながら歩いていると、アイシングクッキー瓶の傍で、動く影をふたつ見つけました。
たくさん房のついた帽子をかぶった、ふとっちょのほうが、クッキーを抱えてかじりついています。
それを見て、傍にいた人形がくちを尖らせて言いました。
「ずるいぞ。それはぼくが食べるつもりだったんだ」
「いいじゃないかあ。たくさんたーくさんあるんだから、これはぼくが食べるんだよう」
カバンのポケットから精霊が飛び出して、クッキーを抱えたふたりのところへ向かいます。
「お菓子を喰ってる場合じゃないぞ。さっさと時計に戻るんだ」
「なんだ、6時じゃないか。なにをやってるの?」
「あいかわらず、のんびり屋だなあ」
「ねぼすけの4時に言われたくはないよう」
引きずられるように出てきたのは、みっつの房がついた3時の精霊と、大きくお腹をふくらませた10時の精霊。
甘い匂いのするクッキーはたしかに魅力的ですが、それだって決まった時刻に食べるからこそ楽しいのです。
お菓子を食べる時間を守らないと、昼ごはんも晩ごはんも、おいしく食べられなくなってしまいます。
「キミたちがいるから、ぼくらは美味しいお菓子が食べられるんだ。いないとこまっちゃうよ」
「そうまで言われちゃ、しかたがないなあ」
「ちぇ、単純なヤツらめ」
マルコが懐中時計を開くと、そこには3と10が増えていました。
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