マルコと12人の精霊

6/12
前へ
/12ページ
次へ
 6と4の数字が戻った懐中時計を持って、マルコは外へ出ました。  肩かけカバンのポケットからは、ふたりの精霊が顔を出しています。  つぎはどこへ向かえばよいのでしょう。 「そうだなあ。3時のやつはお菓子が大好きだから、そういうところに隠れているんじゃないかな」 「10時も一緒にいるんじゃないのか? あいつらはいつもお菓子を食べて休憩してる」  6時と4時がそう言うので、マルコはケーキ屋さんへ向かいました。  パステルカラーのペンキも、暗い空の下ではなんだかさみしいかんじがします。  窓にはレースのカーテンが引いてあって、中が見えません。そっとドアを押してみると、扉が開くではありませんか。  おじさん、ごめんなさい!  心のなかで謝りながら、マルコは店内に足を踏み入れました。  ケース脇の棚には、日持ちのするクッキーやパウンドケーキが袋に入っていくつも並んでいます。おいしそうなお菓子を見ながら歩いていると、アイシングクッキー瓶の傍で、動く影をふたつ見つけました。  たくさん(ふさ)のついた帽子をかぶった、ふとっちょのほうが、クッキーを抱えてかじりついています。  それを見て、傍にいた人形がくちを尖らせて言いました。 「ずるいぞ。それはぼくが食べるつもりだったんだ」 「いいじゃないかあ。たくさんたーくさんあるんだから、これはぼくが食べるんだよう」  カバンのポケットから精霊が飛び出して、クッキーを抱えたふたりのところへ向かいます。 「お菓子を喰ってる場合じゃないぞ。さっさと時計に戻るんだ」 「なんだ、6時じゃないか。なにをやってるの?」 「あいかわらず、のんびり屋だなあ」 「ねぼすけの4時に言われたくはないよう」  引きずられるように出てきたのは、みっつの房がついた3時の精霊と、大きくお腹をふくらませた10時の精霊。  甘い匂いのするクッキーはたしかに魅力的ですが、それだって決まった時刻に食べるからこそ楽しいのです。  お菓子を食べる時間を守らないと、昼ごはんも晩ごはんも、おいしく食べられなくなってしまいます。 「キミたちがいるから、ぼくらは美味しいお菓子が食べられるんだ。いないとこまっちゃうよ」 「そうまで言われちゃ、しかたがないなあ」 「ちぇ、単純なヤツらめ」  マルコが懐中時計を開くと、そこには3と10が増えていました。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加