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マルコは、時計台に戻ってきました。
ここが「はじまり」ですから、なにかヒントになるものはないかしらと思ったのです。
クロウの時計台は、東国から呼ばれた時計技師だったマルコのおじいちゃんが造ったもの。
時計台には、クロウおじちゃんが施した秘密がたくさんありますが、こっそりと隠されていて目立ったものではありません。どうしてなのかと尋ねてみると、おじいちゃんは笑って答えました。
――秘密だからいいんじゃないか。見えないところに名前を記すのは、棟梁の特権だよ。
――トーリョーってなに?
――親方のことだ。じいちゃんの国ではなあ、自分が手掛けた建物に、こっそりサインを入れるひとがいたそうだよ。
気づかれないようにするなんて、おかしな話だとマルコは思いましたが、それが「イキ」なのだそうです。
時計の仕掛けのひとつに、安息日があります。
一週間に一度。町のみんながお休みする日は、時計だってお休みします。鐘が鳴る回数が、いつもより少なくなるのです。
――そうだ。今みたいに、静かになるんだ。
階段を上がり、時計の部品がうごめく部屋に向かうと、そこはしんと静まっていました。いつもはキリキリとまわっている歯車は、ロウで固めたみたいに止まっています。
鐘がある場所を見上げると、垂れ下がった紐になにかがぶら下がっていました。
「キミは7の精霊さん?」
「せいかーい。ぼくは7の時精霊」
するすると下りてきた精霊が、マルコの肩に乗りました。
「鐘を止めたのはキミなの?」
「それがぼくの仕事だもの。7日ごとに鐘の音を止められるのは、7の特権さ」
「うん。それはとっても大切な仕事だとぼくも思う。だけど、今の状態は正しくない。ずっと時が止まったままなのはおかしいよ」
「鳴らしたくても鳴らせないのは、さみしいね」
そろそろ身体を動かしたいんだ。
7時の精霊は床に降りて、他の時精霊と合流します。マルコを中心に、ぐるりと11人が立ちました。
あとひとつ。欠けている場所があります。
8の数字。
マルコはおじいちゃんの言葉を思い出しました。
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