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窓際の空いている席を選んで、先に腰を下ろす。ホッとひと息ついた時、さっきまで自分が気を張り詰めていたことに気づいた。
元彼に女性としての自分を否定され、本当は泣きたい気持ちだった。怒りと悲しみと恥ずかしさを一つの鍋でグチャグチャに煮込んだような、複雑な感情。
それを抑えて冷静に振る舞っていたのは、精一杯の強がりだった。これ以上、惨めな姿を圭一くんに見せたくなかったから。
「お待たせしました」
「ありがとう。本当にお金出さなくて良いの?」
「もちろん。僕がそうしたくてしてるだけですから。……あっ、代わりに欲しいものがあります」
「何?」
「とりあえず食べましょう」
「うん……」
目の前には、輪切りのレモンとミントが添えられた爽やかな色合いのレモネードと、綺麗な焼き色のついたチーズケーキが並んでいる。
向かいを見ると、彼の前には同じチーズケーキと、クリームがたっぷりと浮かんだアイスキャラメルラテ。
「本当に、めちゃくちゃ甘そうな組み合わせだね……」
「ですね」
彼は嬉しそうにスプーンでクリームをすくって、口に運ぶ。
そんな彼をボーッと眺めながら、自分も細長いグラスを手に取る。よく冷えた甘酸っぱいレモネードが、渇いた喉を心地良く潤していく。
「美味しいですか?」
「うん。飲む?」
「いやっ、いいですいいです……!」
「冗談だよー」
焦る姿が可愛いなぁなんて思いながら、今度はチーズケーキを小さく切って口に運ぶ。
「……美味しい」
無意識に漏れた言葉だった。
すぐに二口目を運ぶ。
「美味しいね」
傷ついた心に優しい甘さが染み渡り、自然と顔が綻ぶ。
美味しいものを食べると笑顔になる単純さは、きっと私の良いところなんだと思う。
ふと視線を上げると、圭一くんは嬉しそうな表情でこちらを見つめていた。
「やっと、茜さんの笑顔が見られました」
そう言って、ニコッと笑う。心臓が、ドキッと揺れた。
「甘いものは、心を癒しますからね」
……不思議。ちょっと前まで、内心は落ち込んでたはずなのに。少しずつ霧が晴れていって、今は「どうでもいいや」と思えている。
そもそもあの時、圭一くんが庇ってくれたから、傷もそこまで深くならずに済んだのかもしれない。
これは全部きっと、彼のおかげだ……。
「ごちそうさまでした。お礼に何したらいい? さっき、『代わりに欲しいものがある』って言ってたよね?」
「あ……、それは大丈夫です。もう、もらったので」
「……?」
彼は、穏やかな微笑みを浮かべて答える。
「『茜さんの笑顔』」
……ああ、そっか。私のためだったんだ。
歩き疲れたから「甘いもの食べましょう」って言ったんだと、無理させてしまってたかと思ったけど、私が元気出るようにって考えた行動だったんだ。
強がっても結局、見透かされてた。
年下だけど、彼は私よりずっと大人かもしれないな……。
「ありがとう……」
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