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隣りに座る圭一くんを、そっと見る。
その横顔はとても大人びていて、今日見てきた気弱な彼とは、別の人のようだった。目が離せなくなってしまう。
やがて、その大きな瞳が、ゆっくりとこちらを向く。
いつもならすぐに逸らされる視線が、揺らがずに私の瞳だけに注がれた瞬間、息をするのも忘れる。
「茜さんのことが…………好きです」
一瞬、世界中の音が聞こえなくなった。
我に返ると、彼はもう下を向き、膝の上で拳を握りしめていた。目元は前髪で見えないけれど、顔は耳まで真っ赤だった。
ああ、やっと気づいた。
———ここにありますよ
昨日のあの言葉は、ものすごく勇気を出して言ってくれていたんだ……。
「誰かに愛されたい」という私の小さな叫びを、見逃さずに拾ってくれた。
こんなくだらないことで悩む私を、ずっと想い続けてくれていたんだね。どうして今まで、気づけなかったのかな。
どうして、こんなに想ってくれるんだろう。
「ありが……とう…………」
これは、「幸せ」という気持ちなのかな。胸が苦しくて、切なくて、あたたかくて、嬉しくて、穏やかな気持ち。
今までこんなふうに誰かから、真っ直ぐに想いを告げられたことってあったかな。
「嬉しい……よ」
素直な言葉が溢れた時、視界がぼやけて、しょっぱい味がした。
「ごめ……。あはは。変なの。嬉しいのに」
指先で涙を拭う。
すると、頭に柔らかいものが触れた。
それが彼の手のひらだとわかった時、涙が止まらなくなってしまう。彼は何も言わずに、私の頭をポンポンと撫でてくれた。
「あ……、ごめんなさい! つい……」
慌てて手を引っ込める、年下の男の子。そんな彼が、とても愛おしく思えた。
「ふ……。ありがと……」
やっと涙が止まると、私は圭一くんに向き合って微笑んだ。
「今日、なんだか久しぶりに、私らしく伸び伸びできた気がするの。安心できた。それってきっと、圭一くんだからなんだよね」
私はまだ、この人と出逢ったばかり。でも、これからもっと、たくさん知っていきたい。
「雄介に色々言われた時、『つまらなくなんかない』、『素敵な女性』って言ってくれたことも、本当は……泣きたいくらい、嬉しかった…………」
思わず、また涙が出てきてしまう。
それでも私は、笑顔で伝える。ううん、伝えなきゃ。
「ハンバーガーもチーズケーキも感動するくらい美味しかったし、風は体を通り抜けるような感覚で、海もこんなに眩しくて。圭一くんが見せる表情も、一つ一つが可愛いなあって。そういう色々な感情を、これからもっと知っていけるのかなって。今度は、どんな景色が見られるのかなって」
ベンチから勢いよく立ち上がると、振り返って笑ってみせた。
「それって、幸せだよね」
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