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「可愛い」
太陽が高くなり、ジリジリとした日差しが床のタイルを照らしている。
せっかくシャワーを浴びてきたのに、もう汗ばんできちゃったな。
私は淡い水色のワンピースを身に纏い、舞浜駅の指定された出口に立っていた。周囲は、待ち合わせをする若者だらけだ。
「あ……。相手の特徴、聞いてなかった……」
なんという初歩的なミス。
すぐにメッセージ画面を開いて、文字を打ち込む。
その時だった。
「茜さん」
名前を呼ばれ、思わず飛び上がりそうになる。
驚いて顔を上げると、中性的な顔立ちの優しそうな青年が立っていた。
艶のある、黒いマッシュショートヘアー。長い前髪の隙間から、丸い大きな瞳がこちらを見ている。
「…………?」
誰……? でもこの人、どこかで……。
状況を理解できていない私の顔を見て、青年は遠慮がちに笑いかける。
「あの……。僕、『おむらいす』です……」
「えっ!?」
声も優しそうな、穏やかなトーンだった。
「あれ、なんで私のことわかって……」
「同じ大学なんです」
「えっ、そうだったの!?」
「はい、学部も同じです」
「文学部?」
「地理学科です」
「うそっ! 私は国文学科だよ! ってことは、君は二年生?」
「はい」
「そうなんだぁ。私は……」
「四年生ですよね」
だから、どことなく見覚えがあったのか……。
「なーんだ、同じ大学だったんだあ。それなら言ってくれればよかったのに」
私は今まで、どこの誰かもわからずに交流していたというのに。
「すみません。言い出しづらくて……」
彼は、俯きがちに答える。その顔は、なんとなく赤くなっていた。
暑い……のかな?
「とりあえず、どこかに入る?」
額に滲み出してきた汗をハンカチで押さえながら、周囲を見渡す。
「い、行きたいお店があります。そこでランチでも良いですか!」
数秒前まで俯いていた彼が、急に顔を上げて早口気味に提案してくる。
勢いに押されて、思わず「うん」と頷いた。彼なりのプランがあるのだろうか。
「行きましょう」
とりあえず、彼について行くことにした。
向かった先は、駅から見えるショッピングモール内の、ハワイアンハンバーガーショップだった。
「えっと……ここ?」
私の問いかけに、彼は小さく頷く。
「い、嫌でしたか?」
「ううん。私、ここのハンバーガー食べてみたかったんだ」
そう言って笑いかけると、彼もほっとしたようにはにかんだ。
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