草食男子と残念女子

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草食男子と残念女子

 それは、のんびり散策を楽しみ、ショッピングモール内を一周し終えた時だった。  私は見たくない人を見つけてしまい、反射的に反対方向を向いた。 「どうしたんですか?」 「ごめん。あっちのお店行こう!」 「何か欲しいもの、ありましたか?」 「えっと、そうじゃないんだけど……」  その時、懐かしい声が私の背中に飛んできた。 「あれ、茜じゃね?」  私は思わず、心の中で「見つかってしまった」と頭を抱える。  そして逃げることを諦め、ゆっくりと振り返った。 「あ、やっぱりそうじゃん! 久しぶり」  目の前には、見上げるほどの高身長の男性が立っている。  ヘアジェルでガチガチにセットした黒髪、筋肉質のスポーツマン体型の彼は、色黒の肌から白い歯を覗かせて笑っている。両手は、相変わらずジーンズのポケットに突っ込んでいた。 「雄介(ゆうすけ)ー! 誰? 彼女ー?」  目の前の男性の数メートル後ろから、彼の友人らしき男性たちが声をかける。 「ばっか、ちげーよ! だよ、元カノ! 大学の時の後輩! 今付き合ってんのは、全然もっと可愛い子だし!」  殴りたくなるような言葉を吐いているこの男――雄介と、私は二年前まで付き合っていた。今となっては、消したい過去だ。 「あれー? 後ろに立ってるの、もしかして彼氏? 意外なタイプだね」  彼は首を傾げて、私の後ろで気まずそうに立っていた圭一くんを覗いた。 「……彼氏じゃないけど」 「あ、そうなん? まあ、それもそっか! お前、全然色気ねーしな」 「雄介、それは失礼じゃね?」 「いや、だってマジでそうだもん! 女らしくないし胸ないし、性格もつまんないからさぁ、半年で別れたわ」 「うわっ、ひでーコイツ!」  体のことまで言われ、思わず顔に熱が上る。  ……ああ、もう。私はなんでこんな男と付き合っていたんだろう。なんでこんな男が大好きだったんだろう。  見る目がなかった過去の自分をビンタしてやりたい。そして、目の前でニヤニヤ笑うこの男を、地球の裏側まで殴り飛ばしてやりたい。 「そもそも、告白されたから付き合っただけだし! たとえ半年でも、俺と楽しく過ごせたんだから感謝しろよー」  ……ええ、そうですね。腹立つし悔しいけど、私は彼の言う通りの女だ。  身長高いし、胸ないし、女性らしさもなければ可愛くもない。性格もごく普通の、「つまらない」人間だ。カッコ良くて、スタイルも良くて、女性からモテる雄介とは釣り合っていなかったんだ。  自分がそういう残念な女だということを、圭一くんの前では言われたくなかったな……。
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