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「…………茜さんは、つまらなくなんかないです」
不意に聞こえた言葉に、私は顔を上げた。
そこには、私の一歩前に立ち、雄介を真っ直ぐに見上げる圭一くんの姿があった。
「茜さんは女性らしいし、可愛いし、優しい気遣いの出来る素敵な女性です。あなたこそ感謝したらどうですか。彼女と半年間も付き合えたことに」
その横顔は、さっきまでの頼りない草食系男子の顔ではなかった。初めて見る、強気な「男性」の顔だった。
「……ハァ? 何、お前ムキになってんの? まさかコイツのこと好きなの? それだったらウケるわ!」
「好きですよ」
彼の瞳は揺らがずに、力強く雄介を捉えていた。
「好きです。茜さんの魅力が分からないなんて、随分と薄っぺらい方ですね。別れて正解です。あなたみたいなつまらない男性には、彼女は似合わないですよ」
「は……ハァ!? なんでお前みたいな地味男にそんなこと言われなきゃなんねえんだよ! ナメんな……」
「やめて!」
雄介の手が圭一くんの胸元を掴んだ時、私は間に入って制止した。
「……こんなところでケンカしないで。圭一くん、もう行こう」
半ば強引に彼の腕を掴むと、歩き出す。
そして数歩進んだところで立ち止まり、後ろを振り返った。
「……雄介にとってはつまらない時間だったかもしれないけど、私は楽しかったし幸せだったよ。ありがとう。さよなら」
呆然と立ち尽くす彼を背に、再び歩き出す。もう、後ろを振り返ることはなかった。
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