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笑顔が見たくて
気がつくと、ショッピングモールの外に出ていた。室内で冷えた体に、強い日差しが再び照りつける。
私は立ち止まって、ずっと掴んでいた圭一くんの腕を離した。
「……ごめんね。無理矢理引っ張ってきちゃって」
「だ、大丈夫です」
さっきまで強気だった彼は、もういつもの彼に戻っているようだった。
「ごめんなさい、茜さん。彼に挑発するようなことを言ってしまって……」
「ううん。ありがとう、庇ってくれて。圭一くんは優しいよね」
「優しいとかじゃ……!」
「いいの。もう忘れてね、今のこと。せっかく楽しく散策してたのにごめんね」
彼を安心させようと、精一杯笑ってみせた。でも、自分でもわかるくらいに引きつっている。
内心、沈んでいた。吹っ切れた相手とは言っても、かつて好きだった男性にあそこまで否定されたショックは否めなかった。
「…………甘いもの」
「え?」
「甘いもの、食べましょう」
彼が、唐突に口を開く。
そこに笑顔はなかった。
「う、うん……」
「急にどうしたのかな」と考えた私は、すぐに答えにたどり着いた。
そっか。ずっと歩き通しで、疲れたよね。もしかして、無理させちゃってたのかな。
私たちは、駅にあるコーヒーショップに入った。
「茜さん、喉渇きませんか? 何か飲みます?」
「そうだね。レモネードにしようかな」
この胸のモヤモヤを、さっぱりしたもので流し去りたかった。
「食べ物はどうしますか? アボカドのメニューありますよ?」
「いや、アボカドはもう大丈夫です……。というか私、そんなにすぐお腹空かないよ」
彼なりのユーモアなのかな?
「でも、『甘いものは別腹』ですよね?」
「そうだけど……。私は飲み物だけでいいかな。圭一くんは何か食べるの?」
「はい! アイスキャラメルラテとベイクドチーズケーキです」
「甘っ!」
「甘党ですから。茜さんもチーズケーキ食べませんか? きっと癒されますよ」
彼はそう言って、無邪気な笑顔をこちらに向けた。
「う……。じゃあ、私も食べる……」
私はいつから、この人の笑顔に弱くなってしまったんだろう。
でもなぜか、嫌じゃない。
彼が私と同じものを食べたくてそうしたように、私も少しだけ、彼に歩み寄ってみたいと思ったんだ。
「決まりですねっ。チーズケーキ二つ」
「というか、さっきごちそうしてもらったし、今度は私が出すよ」
「いいですからっ。茜さんは先に座っていてくださいって」
心なしか、圭一くんが、出逢ったばかりの時よりも明るく元気に見える。
……いや、もしかしたら、さっきあんなことがあったから、敢えてそう振る舞ってくれているのかもしれない。
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