【一章】ようこそ森野中学園へ

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【一章】ようこそ森野中学園へ

沙籐(さとう)杞玲(これ)くん、ようこそ森野中(もりのなか)学園へ。私はこの学園の生徒会長をやっている、望月(もちづき)優真(ゆうま)です。よろしくお願いします」  そう言ってスラッとした姿勢の良い生徒が学園の門を開けた。彼はシワ1つないブレザーの学生服を上品に着こなしていた。杞玲は、時間が無かったため仕方なく着てきた学ランをみて、服を替えないと目立つかもしれないと考える。  厳重に閉められていた門は大きな音を立てて開き、杞玲を招いていた。  杞玲はこの学園に追っていた獲物(ワンマジ)の気配を感じ、ホッと安心する。この3日間、休みもなく逃がしてしまった獲物の捜索をしていて、やっとここを見つけられたのだ。  まさか森の中に学校があるとは盲点だった。獲物はこの学園に居る。  杞玲はゆっくり校門に近づいていった。 (もう追い詰めたも同然。とりあえずは学校に着いたら椅子に座ってゆっくりしたい)  そう思いながら、杞玲は校門をくぐる。  その瞬間、体に大量の負荷がかかり立っていられなくなった。杞玲は両膝を地面につけて自身を落ち着かせるように深呼吸を繰り返す。  生徒会長はそんな杞玲の前にきて、膝をおり目線をあわせて話し出した。彼は終始笑顔だった。 「この学園の門を通ってこちら側にきたとき、全ての生徒にがかかるようになります。そのにより、生徒は学園の敷地内に居る間、一種類だけ魔法が使えるようになりました。それは、呪いにかかるときに願ったことや想ったことが要因になります。貴方は先ほど何を願いましたか?」 「何を願ったって……」 (椅子に座りたいと……)  杞玲がそう思うと、ボン、という音と共に杞玲と生徒会長の隣に開かれたパイプ椅子が現れた。その椅子には微かに獲物の力を感じ、少し嫌な予感が頭をよぎる。  生徒会長は笑顔を崩さずに話を続けた。 「三日前の嵐の日の夜、突然学園内に大きな落雷がありました。生徒の大多数が、その時に思っていたことや願ったことが物理法則を無視して出来るようになりました。一種の魔法です。しかしそれは、この学園を出たときと先生や大人に見られている時は効果を発揮できません。全寮制のこの学園に居られる時だけ使える魔法だということです。しかし、魔法はいつか解ける時がくるのを皆はちゃんとわかっています。だから、この微妙な時期にくる転校生を皆、警戒しています。この魔法を奪いに来たのではないかと」  そう言いきった生徒会長は綺麗な笑顔を見せた。 「貴方が今、生成した椅子はここでの貴方の魔法です。是非、その魔法を使ってこの学園で生き残ってください。危ないと思った時は、この魔法は他の魔法と相殺しますので、自身の魔法で自衛してください。もしも他の人の魔法で致命的なダメージを与えられた場合、貴方の魔法は消えてしまうのであしからず」 「……ご忠告ありがとうございます。因みに会長の魔法は何ですか? 俺だけ手の内を知られているのはアンフェアですよね?」 嬉しそうに微笑む生徒会長に杞玲は訝しげな視線を向けた。 「飲み込みが早いですね。そういう人は好きですよ。そうですね、私の手の内も教えておきましょう。私はゲームメイクを出来る能力を持っています。休み時間に闇討ちなんて人も居たのですが、生徒会で全面的に禁止いたしました。しかし、それに反発する者も居ます。そんな人のために堂々と魔法を使ったゲームを試行できる、そういう能力です。もしも私の能力が必要になったら私に会いに来てくださいね」  そう笑った生徒会長は、杞玲に手を差しのべた。杞玲はその手を借りようと手を少し伸ばしたが、それは途中で引っ込めて自分で立ち上がった。生徒会長は手を口元に持って行き、また綺麗に笑った。 「ふふふ。私は、貴方の味方です。なので、そう警戒しないでください」  そう言うと、自身の腕時計を確認した。 「そろそろ時間がなくなってきましたね。ここから校舎に向かうには、目の前にある庭園を抜けてください。その先に校舎入り口があります。入り口には貴方のクラスメイトで生徒会委員の(ともえ)朱音(あかね)が居ます。校舎内は彼女に案内してもらってください。私は所用ができましたので、これで失礼します」  生徒会長は恭しく頭を下げて、庭園とは違う方向に歩いて行った。
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