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【二章】イス生成魔法とワンマジ
校舎へ向かう間にある庭園は、アーチ状の入り口があり、そこには色とりどりのバラが咲き乱れていた。入り口をくぐったあとは、背よりも高い木や植物が続いており、それらが緑のカーテンとなって周りが見えず迷子になりそうなほどであった。それはまるで迷路のようで、なるほど、時間がないと言っていた理由が理解できる。
『おい。ここどうなってんだ? あいつのワンマジの臭いプンプンして鼻が曲がりそうなんだけど』
杞玲のポケットにしまっていた実羅が話し始めた。どうやら、こちらのワンマジも使用出来るらしい。
杞玲はポケットから鏡を取り出すと、右手に鏡を持ち、鏡に周りを見せるように歩き始めた。
「……やはり、ここだとアイツを探すのは困難みたいだね。生徒会長からもアイツのワンマジの臭いがしたよ。おそらく魔法が使えるようになった生徒全員、アイツの臭いがするだろうね」
『うえー。死にそう』
「なんにせよ、アイツのワンマジの能力はわかった。俺が探しているモノではないけど、ひょっとしたらこのワンマジのおかげで探している能力を持った者が居るかもしれない。アイツを探しつつ、他の者の能力の調査も行う。お前にはいっぱい働いてもらうよ、実羅」
『へーへー。まあ、そういう契約だからな』
「問題は、実羅のワンマジでコピーした俺も魔法が使えるか、だな」
『それは、使えるんじゃねーの。俺様、最強だから』
「……はあ。お前に聞くんじゃなかった」
『何だよ! やるのか!』
興奮した鏡がワンマジでコピーを作りだそうと虹色に光った時、杞玲はすぐに鏡をポケットにしまった。
『何すんだよ!』
「しっ。黙れ。アイツの気配が近づいてくる……」
カサカサという音がだんだんと近づいてくるのを実羅と杞玲は理解する。音がすぐそこまで来たときに、杞玲は上体を低くして事態に備えた。
すると、一瞬沈黙になった後に黒猫が飛び込んできた。杞玲はそれを受け止めて後ろに倒れる。黒猫を追ってきた蔓の塊が倒れた杞玲に目掛けて飛んできた。
「実羅!」
杞玲の言葉と同時にポケットが光り、もう一人の杞玲がコピーされる。そして、瞬時にコピーの杞玲に実羅自身の意識が入り込む。
単純に実羅が動かした方が強いからである。
コピーの杞玲(姿は杞玲、中身は実羅)は、そのまま蔓の塊に突っ込んでいき、両手で蔓の塊を止める。止まった蔓の動きに気をよくして、かけ声と共に右足に力を込めて回し蹴りを放った。
『おらあああ、って。ええええ』
実羅は、下から這い出てきた蔓に回し蹴りした足を取られて動けなくなった。みるみる足以外の体も絡め取られ、宙に体が浮いてしまう。
「はあ。実羅、軽率すぎ」
『うっせえ。さっさと助けやがれ!』
杞玲はため息をつくと、立ち上がり口元に右手の親指をもっていき分析し始めた。
「これは、おそらくアイツのワンマジの影響で魔法が使えるようになった生徒の魔法。たしか、魔法には魔法で相殺すると言っていたな」
そういうと杞玲は魔法を唱え始める。
黒猫は杞玲の肩に移動して、事のなりゆきを見守っていた。
「イス生成」
杞玲が片手を前に出してそう言うと、閉じたパイプ椅子が上から降ってきて、実羅を捉えている蔓に突っ込む。蔓はボロボロと崩れ去り、パイプ椅子も同時に消失した。絡まっていた蔓が消えたことで実羅は地面に落ちる。しかし蔓はまだまだ増えて伸びてきていた。
「実羅、おそらく本体が居るはずだ。それを叩くから、時間を稼げ。さっき丁寧に説明したから、どうやって時間を稼ぐかわかるだろ?」
『へいへい。じゃあ、俺もやってみるか。イス生成!』
実羅が手を前に出して、そう言うと閉じたパイプ椅子が実羅の手に現れた。それを手に持ち、襲いかかる蔓に向かって振り回す!
『ひゃっほーい。思った通りの場所にイスが出るぜ! ほら、イス生成!』
蔓とイスで相殺して消えたところにもう一度イスを生成して、物理的にパイプ椅子をぶん回すという方法で蔓の追撃を撃退していく。いささか原始的な戦い方だが、効果はありそうだ。
『ははははは、どんどん来いや!』
※
「あっちは大丈夫そうだな」
少し外れたところで杞玲は、イスを生成し始める。自身の足の下にイスをピラミット状に生成していく。自身を支えるイスは座面部分が小さめの開いたイス。その下に座面部分が広く脚がしっかりしたイスを、その更に下にもっと座面部分が広いイスを作っていく。しかし、五つを作り終えたところで六つ目のイスの生成に失敗した。正確に言うと六つ目は作り出せたが、一つ目に作ったイスが消えたのだ。
「限界は、五つまで、か。イスはいろんな形が作り出せるし、何処にでもイスは出せる。……」
少し考えた杞玲は五つあるイスを全て消してしまう。そして、一番大きい木の所に行くと、木の幹に手を当てた。
「イス生成」
木の幹に閉じたパイプ椅子が刺さった状態で生成された。きちんとパイプ椅子の脚の部分と木の幹は接着していた。手でパイプ椅子の座面を押しても幹から外れる事はない。ただ、強く押すとパイプ椅子が幹に向かってしなってしまう。
「イス生成」
再度、閉じたパイプ椅子で先のパイプ椅子の背もたれ部分と幹部分を固定して先のパイプ椅子を動かないようにする。そこに杞玲は軽々と乗り、同じようにイス生成をして、木の上にサラサラと登ってしまう。木の上から実羅に襲いかかっている蔓がどの方向か確認し、迷路のようになっている緑のカーテンの一角に、光っている花があるのを見つける。
杞玲はその花に目掛けて、手を前に出す。
「イス生成」
現れたイスが花を押しつぶす時に、不快な音がした。その潰れた音に杞玲は唇を噛む。この音は杞玲の戒めの音だった。
この人生を歩むきっかけになった音。
忌々しい音。
もう花は無いのに杞玲は再度、手を向ける。
「……イス生成……」
ーーグチャッ。
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