【プロローグ】嵐の夜に

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【プロローグ】嵐の夜に

 それは、嵐の夜だった。  森の中で視界が悪い中、杞玲(これ)はとある人物を追っていた。滑りそうになる足を器用に操り走り、ポケットから鏡を取り出す。鏡は掌サイズで杞玲の手にすっぽり収まった。そしてそれは虹色に光り、追っている人物の背中を映す。 「何処にいるかわかるか?」 杞玲が鏡に問いかけると、鏡―実羅(みら)―は不機嫌そうに話し出した。 『テメーの目は節穴か? ニ百メートル先に居るだろうがよ』 「嵐のせいで前、見えないんだよ。あ、鏡の君は目がないからわからないよね」 『喧嘩、売ってんのか、こら。もうテメーの命令は聞かねえぞ』 「じゃあ、もう、お前は普通の鏡だな。割るぞ」 そう言って杞玲は手鏡に拳を突き立てる。脅しているつもりらしい。 『テメー、きったねーぞ』 意外と効果覿面(こうかてきめん)だったようだ。鏡がそう反論したとき、虹色に光っていた鏡の輝きが一瞬にして解かれた。 『あー! やべ、勢いでワンマジ解いちまった』 「実羅!! アイツの行方は?」 再度、鏡が虹色に輝き始める。 『今、新しくコピーを送ったけど、わかんねー。まだ気配を感じるから森から出てはいないんだろうけど』 「……ちょっと、抜ける。追跡調査、引き続きやってくれ」  そう言うと足を止め、杞玲は鞄から携帯電話を取り出す。実羅は杞玲に命令される前に杞玲のコピーをその場に作成した。  鏡の実羅は、杞玲と契約することで鏡の力であるワンマジを使うことができた。その能力はコピーを作ること。  杞玲はワンマジで出来たコピーに鏡を渡して、向かっていた方向と別の方向に歩きだした。  これから、彼の父親兼上司に報告をするのだろう。杞玲はあまり電話をしているところを実羅に見せたがらなかった。しかし実羅は杞玲が父親と話す時だけ、感情を殺し機械のように話すことを知っている。実羅はほんの少し杞玲の心配をして、コピーを向かっていた方向に歩かせた。そして少しだけ聞こえてきた杞玲の会話の断片に聞こえなかったふりをする。 「ーーはい。父様。申し訳ございません。この森の出口すべて封鎖して下さい。はい、すぐに探し出します。……次は失敗しません」  杞玲は電話が終わり、実羅と杞玲のコピーの所まで追いついてきた。そこで杞玲が鏡を受けとるとコピーは消え、杞玲と実羅だけになる。実羅は鏡を虹色に輝かせながら、少しだけ杞玲に同情した。 『……俺、お前の親父嫌い』 「奇遇だな。俺もだ」  さっきまでの嵐はいつの間にか止んでいた。  ただただ、生暖かい風が一人と鏡に当たっていた。
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