ルキーニ~太陽になり損ねた男~

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 あのクソ裁判官に「終身刑」と言い渡されてから、早11年。  俺は何度も言ったんだ。「俺を殺して、さっさとこの監獄から解放しろ」って。  それが終身刑だ? はっ、本当にふざけた世の中だぜ。  ん? 何でこんなところにいるかって? 冒頭をよく見ろ、皇后を殺害したんだ。  その皇后が誰だか分からないって? エリザベートだ、エ・リ・ザ・ベー・ト……って、おい! ちょっと待て! エリザベートを知らないって?  呆れた奴だな……しゃーねー、この俺が教えてやるよ。  オーストリア皇帝のフランツ=ヨーゼフ1世に見初められた彼女は、わずか16歳でハプスブルク家に嫁いだ。結婚してまもなく、長女を出産。  だが、その喜びもつかの間……愛娘を姑に取り上げられる。宮廷の古いしきたりを受け入れることが出来なかった彼女は、姑に猛反発し、オーストリアを飛び出した。  彼女が自由を求めて各地を放浪しているさなか、息子のルドルフ皇太子に先立たれてしまう。息子に寄り添えなかったという後悔の念から生涯喪に服し、以来、黒服を手放すことはなかった。  これだけ聞けば、誰もが「悲劇の皇妃」などとほざくことだろう。  だが、俺から言わせれば、こんなものはまがいもの、お涙ちょうだいの悲劇さ。  彼女は息子を捨てた。自由奔放に育った息子は、厳格な父と相容れるはずもない。息子から助けを求められてもなお、彼女が手を貸すことはなかった。とことんまで追い詰められた息子は、恋人と拳銃で心中自殺。当然の報いさ。
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