第四部

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 特高の公用車。セレネを運んできた連中だろう。今の情報のお陰で、セレネがやはりここに運び込まれたという確証が持てた。そもそもヴィヴィの情報を疑っていたわけではないが、やはり情報というものはそれすなわち武器だ。取得情報の裏付けも大事な作業である。  警備員の二人は、まだ会話を続けている。 「えーっと……今日他に来るのは」 「そろそろ訓練用の空砲を運ぶトラックが来るはずだ。十時って言ってたし、そろそろじゃないか」  俺は唇の端を持ち上げた。欲しかった情報をまんまと漏らしてくれたのだ。笑ってしまうのも仕方ない。俺は茂みからゆっくりと身を出すと、搬入口とは反対の来た道へ折り返していった。  この基地の搬入口までの道は、一本しかない。基地の防衛上それが合理的なのだろうが、今となってはその特徴は俺に有利だった。俺は一本道を戻っていくと、適当なところで草むらに隠れた。そして近場から手のひらサイズの石を見繕う。それを右手に握りしめながら、俺は時が来るのを待った。  しばらく待っていると、町の方から一台のトラックがやって来た。自衛隊用のトラックのようで、緑色に塗装されていた。なお都合がいい。自衛隊のトラックは、すぐに荷物が取り出せるようにダンプのような形状になっているのだ。  俺はトラックが目の前を通り過ぎる瞬間、トラックに向けて石を投げつけた。その石は俺の狙い寸分違わずトラックの助手席のドアにぶち当たった。少し重みのある石だったからか、辺りに少し異音が響く。トラックの運転手もそれに気が付いたのか、車を静かに停止させた。  俺は運転手が確認に来る前に、トラックの後ろに回り込んだ。そして取り付けられた梯子に手をかけ、ダンプの荷台に入り込む。外から、鳥がぶつかったのかと独り言ちる運転手の声が響き、すぐにトラックは発進した。  これで中まで怪しまれずに入り込める。入ってしまえば、基地の内部は監視の類もあまり警戒しなくていいだろう。俺は緊張感から分泌されたアドレナリンの苦みを味わった。  トラックの貨物と共にしばらく揺られていると、車が停車した。それと同時に何か話し声が聞こえる。 「お疲れ様です。空砲の搬入ですね」 「はいそうです。いやぁ、遅いのにご苦労様です」 「それはお互い様ですよ。はい、中へどうぞ」  和やかな会話の中、彼らが貨物の中に侵入者が紛れ込んでいることに気が付いていないことを考えると、皮肉に思えてくる。すぐさま車は前進を開始し、俺は基地内への侵入に成功するのだった。
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