第一部

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 しかしそこで、日本政府はある法案を可決することとなる。「逮捕権緊急措置法」と呼ばれるそれは、日本である変革を起こした。逮捕権の民営化。これがこの法律の目玉である。  既存の警察組織だけでは増加する犯罪を抑え込めないと判断して、逮捕権の一部を国民に委ねたのだ。もちろん、一般人が警察官と同等の逮捕権を持ったわけではない。逮捕権の一部を明け渡したのだ。  逮捕権には大別して通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の三つが存在するが、この逮捕権緊急措置法では、仮逮捕というものが付け加えられた。仮逮捕というのは、警察権から公式に依頼された被疑者拘束のための逮捕を補助すること、を意味する。わかりやすく言えば、警察から依頼を受けた民間人が、“仮に”被疑者の身柄を拘束することを指す。つまりは、逮捕自体は俺たち正式な警察が行うから、お前たちは容疑者を目の前まで縄で縛って連れて来い、ということだった。この構造が成り立ったことで、民間人は警察組織の下請け、とも捉えられる状況へ変化した。先ほどから民間人、と呼称はしているが、もちろん逮捕権を好んで行使しようという物好きはいない。法執行機関(サービス)の代行などまっぴらごめんというわけだ。ここで、逮緊法(逮捕権緊急措置法の略)は警察が民間に依頼を出す際、報奨金を払う義務を明文化した。それによって、民間でも警察から外注された仮逮捕依頼を受ける者が出てくることになる。犯罪取り締まりを、民間が行う社会。様々な問題点が未だに議論されているが、逮捕権が民営化されたことで、犯罪の波は多少の改善傾向を見せた。ただ、ここで満足してはならない。新しいものは、また新たなる問題を引き起こすのだ。
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