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俺はベッドから立ち上がろうとして、背中に激痛が走った。その痛みに悶絶していると、ヴィヴィが身体を支えてくれる。
「こらこら、動くんじゃない。君は重体だ。車に撥ねられて無事だったのだから僥倖と言うべきかもしれないがな。右の肩甲骨と肋骨二本の骨折。それと後頭部裂傷だ。ともかく寝てろ」
そう言うと、ヴィヴィは俺の身体を支えながら、ベッドに横たえてくれた。そもそも背中に体重をかけることは厳禁なのか、ベッドの上体が持ち上げられた状態だったが。
そう言えば、どうしてヴィヴィはあの場にいたんだろう。偶然にしても出来すぎている。「君は今、どうしてあの場に私がいたのか疑問に思っているな」
俺の心を読んだかのように、ヴィヴィがそう尋ねてきた。彼女は昔から人の感情を読み取ることに長けていた。だから特段驚いたわけではないが、やはりそういった特殊な力があるからこそ、彼女は名前付き(ネームド)として活躍できているのだろう。
「実は君の仲介人であるボンドマンから私的な依頼を受けてね。ロボがなんだかヤバいことに首を突っ込んでいるらしいから、お前が守ってやってくれってさ。そりゃ私の愛弟子がピンチなら、助けてやるのもやぶさかではないわけだな」
あの男、ただのしがない中年に見せかけてやはり切れ者だ。まさか俺の護衛をヴィヴィに依頼していたとは。その気遣いと優しさが心に沁みる。
ふと、一つの疑問が浮かんだ。ヴィヴィがボンドマンの依頼を受けて俺を守っていたことは理解したが、それとは別になぜ彼女はセレネのことを知っていたのだろうか。ボンドマンも流石にセレネのことは言わないだろうし、どこで知ったんだ。
「セレネについて、どこで知ったんですか……」
「んん、ああ。疑問に思っても仕方ない。意外に思うかもしれないが、実は私は、前に一度彼女に関係する依頼を受けたことがあってね。それはまたおかしな依頼だったから、よく覚えているよ」
「その依頼、というのは……」
「出入国在留管理庁――いや、国連の人類進化研究所からの偽依頼だった。成田空港でスウェーデンの日本大使館から送り込まれた外交伝書使の持つ外交封印袋を奪取して欲しいという依頼でね。そんなことすれば普通に国際問題なわけだが、それもあって身元を隠していたんだろう。任務はつまるところ失敗。外交封印袋は確保したんだが、中身が逃げ出してしまってね。あれは私の不注意だった。外交封印袋に人が入っていたケースは無きにしも非ずだが、まさか自分がそれにあたるとはね」
「その中身というのが――」
「そう、君の考えている通り、セレネだったよ」
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