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人類進化研究所がヴィヴィにもセレネの強奪依頼を出していた。これは恐らく俺にセレネの連行依頼が舞い込む前のことだろう。奴ら、毎回のように身元を偽っていたのか。
「そもそも、表記が出入国在留管理庁の時点で怪しむべきだったね。何故そんな省庁が外交封印袋を欲しがるのか、そのくらい馬鹿でもわかった。全く、あの時の私は抜けていたよ」
そうか、それでセレネのことを知っていたのか。それならボンドマンから依頼を受けた際に、なんとなくセレネが関わっていることを察したわけで、ボンドマンに聞いたのだろう。流石に彼もセレネについて知られていたら答えざるを得ないわけだ。
「セレネは、今、どこに……」
「あの時代遅れのクラウンのナンバープレートはネットワークに登録されていなかった。だから追跡はほぼ不可能だ。そもそも相手は警察なわけだしね。――だけど行き先に心当たりはある」
「それは」
そこでヴィヴィは一息吐いた。
「その前に、看護師さんに君が目醒めたことを伝えないとな」
そう言ってはにかむと、ヴィヴィは俺の額にかかった前髪を撫でた。彼女は俺を落ち着かせるとき、いつも身体に触れてくる。ちょっとした気恥ずかしさは拭えないが、それでなんとなく安心してしまう自分がいた。
ヴィヴィは俺の髪から指を離すと、白いカーテンを手で開けて、その場から去っていった。ベッドに残された俺は、溜息を吐きながら天井を見上げる。見慣れない天井。慣れない状況に対する浮遊感が身体を巡っている。俺は環七での事故で、ヴィヴィによってここに運び込まれた。それと同時にセレネを特高に奪われ、どこかへ誘拐されてしまったわけだ。とんでもない事態に巻き込まれてしまったことは悟ったが、やはり現実感がなかった。
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