第四部

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 そんな風に思索に興じていると、バタバタと駆け寄るような音が響いた。まもなくして、ベッドを仕切るカーテンが勢いよく開け放たれた。その先には、目に涙を溜めた花菱さんが唇をキュッと結んで立っていた。 「花菱さ――」  言い終える前に彼女はこちらに駆けよって、そのまま抱き締めてきた。まさか抱き付かれるとは思っていなかったので、ちょっと理解が追い付かなかった。花菱さんの後ろで、遅れてやって来たヴィヴィがやれやれといった風に肩を竦めていた。  俺を抱き締めた花菱さんは、俺の胸に顔をうずめながら泣き始める。俺は彼女が泣く理由を図りかねていた。 「――バカ。いくらお姉さんのためだからって、賞金稼ぎなんかになっちゃダメだよ。本当に死んじゃうかもしれないんだよ……」  俺を抱き締める花菱さんに呆れたような顔をしたヴィヴィは、俺の方を見て花菱さんを宥めた。 「ほら、ナオトも目を醒ましたし、チェックすることがあるのでは」  そう言われた花菱さんはどこか残念そうな顔をしていたが、諦めたように溜息を吐くとベッドの前でしゃがみこんだ。 「ナオトくん。ちょっと体調を確認するからね」  そう言って、体温、血圧、血中酸素濃度、眼底検査などを一通り行った。どれも特に異常はなさそうだったので、花菱さんは安心したように息を吐いた。 「うん、問題ないわね。でも安静にしてなきゃダメよ。重傷なんだから」  そう言って、聴診器を首にかけて立ち上がった。 「今日はもう寝ちゃいなさい。あ、それと、マツリさんと同じ階に入院してるんだから、早く治して顔見せてあげなさい。きっと喜ぶから」  微笑んだ花菱さんは、ヴィヴィに何事かを告げると、この場から立ち去って行った。  この部屋はどうやら四人部屋のようだが、俺以外に入院している人はいないみたいだった。物音がしないのがその証拠だろう。俺はヴィヴィと二人部屋に残されたようだ。 「ヴィヴィ。さっきの続きを」  ヴィヴィはそれを聞いて、また呆れたように肩を竦めた。 「休めって言われてたじゃないか。寝た方が良いんじゃないか」 「ヴィヴィ」  俺の声から真剣さを感じ取ったのか、ヴィヴィも真面目な表情になる。 「ナオト。どうしてそこまでセレネにこだわる。彼女は別に君の関係者ではないのだろう。セレネの背後に何か巨大な陰謀が隠れていることは確かだ。私たちでは手に負えない。でもどうして彼女を取り返そうとするんだ」
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