第四部

12/31

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/128ページ
 ヴィヴィは俺の瞳を見据えてそう言った。セレネにこだわる理由。きっとそれは、マツリとセレネが似ているからだ。だから俺はセレネに感情移入している。ヴィヴィにそれを言えば、きっと間違いだと否定してくるだろう。でも俺は、ここで嘘を吐けるほどずる賢くはなかった。 「――ここでセレネを見棄てれば、きっとマツリを見棄てたのと同義になる」  でもきっとそれ以上に。俺はセレネと過ごした日々を思い返した。喋らないけど、良く笑ってくれた女の子。ご飯を作ってくれて、俺の心配をしてくれた少女。二週間ちょっとという短い期間だったけど、俺の中でセレネは姉と同じように特別な存在になりつつあった。 「それに、俺はもうセレネをただのモノとしては見ていない。彼女に救われた部分もあった。だから今度は、俺が彼女を助ける番だ」  俺の告白を耳にして、ヴィヴィは大きく息を吐いた。呆れたのだろうか。でも呆れられたとしても、これが俺の本心だ。偽りのない、俺の本当の気持ち。だから何と思われても、それを受け入れる覚悟はあった。 「――もうロボ(Robot)とは呼べないな、少年。私が君に初めて会った時、本当に君は賞金稼ぎに向いていると思ったよ。金のために全てを賭けられる。その覚悟が君にはあったからね。でも今は違う。まだマツリのことは考えているだろうが、それ以上に人情を優先している。君は変わった。セレネが君を変えたんだ」  そこでヴィヴィは一旦言葉を区切ると、 「君だって本当は気付いているだろう。自分に必要なものが何なのか。非情なことを言っているようだが、きっと理解しているはずだ」  俺だって、ヴィヴィの言うことはわかった。いや、わかりきっていた。俺はもう賞金稼ぎに慣れた時点で子どもではない。だからきっと―― 「――ふふ。良い表情だ少年。男になったな」  そう言うと、ヴィヴィは目を閉じた。まるで自分の役目はもう終わったと言わんばかりに。でもヴィヴィには、まだ協力してもらわなければいけない。 「ヴィヴィ、俺は」 「わかっている。行くのだろう。――まあ、止めても聞かんだろうしな」  呆れたように微笑んだヴィヴィは、いつになく真剣な表情になると、 「セレネが連れ去られたのは、横須賀にある自衛隊の研究施設だ」 「どうしてそれを。さっき行き先はわからないって」  そう尋ねると、ヴィヴィは得意そうに胸元から彼女の愛銃、グリズリーマグナムを取り出した。 「タグトレーサーだ。君だって知っているだろう」
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加