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身体に癒着したスーツの違和感が拭えないが、手を開いたり閉じたりしてみる。筋力が増強されたような感覚は今のところないが、それでも薬物投与と患部補助の機能は働いているのか、背中に痛みも違和感もない。少し患部の感覚が鈍い気もするが、この程度は全然許容範囲だ。
「うん。似合ってる似合ってる」
ヴィヴィがスーツに身を包んだ俺を眺めながら、うんうんと頷いていた。このスーツはインナー的機能を重視しているのか、表面はマットブラックでコーティングされていた。
このまま出歩くわけにはいかないので、ヴィヴィが持って来ていたパーカーとズボンを着込む。スーツはインナーだけなので、上から服を着てしまえば外から見えてしまうこともない。
これで準備は整った。セレネを助けに行こう。そう思った時、ヴィヴィがトランクから何かを取り出した。
「肝心なものを忘れているぞ、少年」
彼女がそう言って取り出したのは、俺の愛銃であるスピードシックスだった。
「君が眠っている間に取ってきた。きっと必要になると思ってな」
そう微笑みながら言って、彼女はスピードシックスを差し出してくる。
「この銃は私と君の絆だ。手放すなよ」
ヴィヴィからスピードシックスを受け取り、大きく頷く。このスピードシックスは、俺が初めてヴィヴィと会った時、そうあのベイル・ジャンパーを捕まえた時、彼が持っていた銃だ。その銃をヴィヴィは報酬代わりに受け取っていて、俺が賞金稼ぎになった時、記念にくれたのだ。だから、俺とヴィヴィの絆というのは、あながち間違いではない。
俺はスピードシックスをショルダーホルスターに収めて、病室を出ようとした。しかしそこで、後ろからヴィヴィが声をかけてきた。
「せっかくお姉さんと隣の病室なんだ。バレないように挨拶してきな」
そうか、花菱さんも言っていたが、マツリと同じ階に入院していたのだった。ヴィヴィの提案に首肯して、今度こそ俺は病室を出た。
「ありがとう、ヴィヴィ。俺の師匠」
ヴィヴィの様子は後ろ手で見えなったが、それでも彼女は笑っている気がした。
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