第四部

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 二十二時過ぎ。冬の厳しい夜風が、横須賀の街を吹き抜けていた。東京から離れたこともあって、人通りはかなり限定されている。それに外国人の数もかなり少なく、日本人が多く見受けられた。  戦闘継続補助スーツが、冷たい外気を察知して体温の恒常化を開始したようだ。少しだけ全身の圧迫感が増したが、パーカー一枚という薄着にも関わらず、寒さは感じない。このような便利機能まで付いているとは、まさに次世代の歩兵用装備といったところか。まぁそれを使わせてもらっているのは、民間の賞金稼ぎであるわけだが。  横須賀の街から少し離れたところに、目標の建物はあった。技術研究本部。そう呼ばれている組織は過去にも存在していたが、昔のものと同一ではない。二千十五年に防衛装備庁に統合された組織ではなく。また新しく近年設置された自衛隊の研究施設だった。現在、その本部は海上自衛隊の基地である横須賀基地に併設されている。基地自体は、もし敵から爆撃を受けた時に、少しでも民間への被害を減らすために市街地から距離を取っているようだった。その自衛隊の横須賀基地は、来るものを全て拒絶するかのような存在感を放っている。基地の周りは監視カメラ付きのフェンスで囲われており、そこからの侵入は困難であることを示していた。他に侵入経路があるとすればやはり正面の入り口からか。しかし当然のことながら正面口は警備がいるわけで、そう簡単には侵入できそうにない。やはり少し絡め手を使わない限りは中への潜入は難しそうだった。  俺は監視カメラの死角を縫うように、正面の入り口、もとい物資搬入口に近づいていった。この時間帯に自衛隊の基地の周りを歩く物好きはいない。もし発見されれば怪しまれて捕まる可能性がある。搬入口には警備が二人いた。いずれも自衛隊員のようで、緑色の迷彩服に身を包んでいた。手にはアサルトライフルが握られている。あれに撃たれればひとたまりもないだろう。彼らに気づかれないよう、近くの茂みに身を隠す。しばらく待っていれば、いずれ交代の時間が訪れるだろう。その警備が薄くなるタイミングで、何とか侵入するつもりだった。  身を潜め、息を殺していると、辺りが静寂に包まれていたからか警備員二人の会話が風に乗って聞こえてきた。流石に警備員と言えど、ずっと無言で立っているのは退屈というわけだ。俺は何か情報が得られるかもしれないと、耳をひそめた。 「――今日のあの公用車、特高の車だろう。なんであいつらがここに」 「詳しいことはわからないが、なんでも新兵器の研究の実験体らしい」 「なんだそりゃ。まさか戦争でもする気か。俺はごめんだぜ」 「まぁ新しい兵器を占有すれば、他国への抑止力になるからな。日本ももう安全とは言えないし、それもあるんじゃないか」
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