第一部

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 もはや混沌の権化ともいえる惨状を曝け出した日本だったが、その中でも俺は懸命に暮らしていた。  先程、賞金稼ぎは滅んだと言ったが、実はその限りではない。絶滅危惧種に近い状態ではあるものの、賞金稼ぎという人々はギリギリの状態で生き永らえていた。  しかし、もちろん仮逮捕権を独占している民警の前では、賞金稼ぎは生き抜けない。警察側も外注する依頼のほぼ全てを民警に委託していたし、警察と民警という組織がほとんどグルに近い癒着を見せていたのだ。  ただ、その中でも、賞金稼ぎに対する需要はあった。例えば、民警側に知られたくない仕事――いわゆる汚れ仕事(ウェット・ワークス)と呼ばれる類のもの――については、社会的発信力の低い独立した個人である賞金稼ぎに依頼することも少なくない。それ以外でも、賞金稼ぎに対しては報奨金を高く見積もる必要がないことから、民警にはない臨機応変さ、器用さが高く評価された。  ただし、ここで賞金稼ぎの課題となるのは、仕事の達成率についてだ。先程も述べたように、民警が自らを組織化した背景には、依頼達成率の安定化というものがある。個人で依頼を達成するというのは、かなりの困難が予測される。当たり前のことだが、タスクを組織で細分化して担当する方が、仕事の事故率は減るし、時間的短縮にも繋がるのだ。だからこれまでの組織というものは肥大化を繰り返してきたことで、処理可能なタスクの範囲を拡大していった。まぁ、組織が巨大化することによって発生する意思疎通の困難がそれはそれで組織の問題となるのだが、話を戻そう。つまり単独で任務を完遂するにはそれなりのリスクが予想される。依頼を達成できなければ当然報酬は出ない。賞金稼ぎというのは恐ろしく安定性のない仕事というわけだ。  だが、その中でも、ある一定の成果を出す者もいる。単独でありながらも高い任務完遂率を誇る賞金稼ぎ。彼らは「名前付き(ネームド)」と呼ばれ、賞金稼ぎの界隈では名持ちとなり、警察の外注任務のお得意様となる。彼らは民警に引き渡さなかった仕事を優先的に配当され、その上で成果を出す。単独での任務達成だから報奨金は独り占めできる。民警一人の手取りより圧倒的な金額の報奨金を手にすることができるというわけだ。  この結果、民警と賞金稼ぎという二大巨頭が屹立することになる。両者は互いを疎ましく思いながらも、荒廃した日本で共存していた。  さて、だいぶ話が脱線してしまった。つまり何が言いたいかというと、俺は賞金稼ぎの中でも名前付きと呼ばれる者だということだ。俺の異名は「一匹狼(ローン・ウルフ)」。まぁ警察の依頼を受ける際に偽名としてロボ、と名乗っていたから、それと関連して狼と呼ばれるようになったみたいだ。俺は単独で任務をこなし、報奨金を独り占め(まぁ依頼の仲介料として業者に一部支払ってはいるが)してきた。ちなみに俺は現在十九歳だが、なんで二十歳にも満たない男がこんな危険な仕事をしているかは、のちのち話そうと思う。
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