第四部

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 しかし俺が判断を下そうとした時、乾いた音が響き渡った。かなり音自体も小さく、かつ発信源がわからない。その情報からサプレッサー付きの銃火器だと気が付いた頃には、先の方を歩いていた自衛隊員の頭が弾けていた。  頭を打ち抜かれて、彼は頭に溜め込んだ脳みそを周辺にぶちまけた。暗くてしっかりとは見えなかったが、頭が欠けて、そのまま身体が崩れ落ちるのは確認できる。俺はすぐさま兵舎の端に身を隠して、辺りに目を凝らした。  恐らく基地への搬入口、つまりは入り口の方から、十人ばかりの人影が走ってくるのが見えた。体格から、彼らが日本人ではないことを悟る。彼らは全身を武装しているようで、手にはアサルトライフルと思われる武器を持っていた。  自衛隊ではない。しかもさっきの男を打ち抜いたのが彼らだとすると、自衛隊にとっては敵だ。その情報から奴らの所属を推定しようとしたが、これだけではわからない。そもそも外人が自衛隊員を打ち抜くということは、国際問題に発展しかねない大事案だ。そんなことが起きている時点で、現在の状況はかなりイレギュラーなものだと言えた。  消音性によっぽど優れたサプレッサーを使用していたからか、兵舎で眠る自衛隊員たちが置き出てくるなどはないようだ。それに連中、統制の取れた動きをしている。まるで戦い慣れた軍隊のような。それを鑑みると国内の反政府ゲリラなどではなく、訓練された本物の戦闘部隊だと考えられた。なんでそんな部隊がこんなところに――。そこまで思考して、俺はここに隔離されているセレネという存在を思い出した。彼女は入り口の警備員が言っていたように、新兵器の実験体であるらしい。もしそれが事実なら、外国の部隊がセレネの占有を考えるのも不思議ではない。それを考慮すると、かなりリスキーだが、基地内に潜入してセレネを奪取するということも(普通はありえないだろうが)可能性の一つとして数えられる。発覚すれば間違いなく国際問題だが、そのリスクを冒してでも奪取したい存在がセレネなのか。彼女には一体どんな秘密があるんだ。今はわからないけれど、もう一度再会したら今度こそ告白してもらおう。彼女と関係を持つうえで、それは知らなければならない真実だと思うから。  しかし、連中がセレネの強奪を作戦目標に掲げていた場合、それはそれは困ったことになる。俺と目標物が同じなのだ。賞金稼ぎ一人と特殊部隊十人ほどでは戦力差は歴然だ。正攻法では彼らにセレネを奪われてしまうだけだ。俺には、彼らを上手く出し抜いた上でセレネを確保することが求められた。今まで受けたことがないくらい難易度が高い任務だ。普段なら依頼そのものを受けないくらいに。だけどここまで来てしまったからには、セレネを返してもらう。
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