第四部

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 特殊部隊の連中は、迷うことなく、一棟の建物へ前進していた。彼らが本当に外国の部隊なら、セレネの隔離場所を知っているのかもしれない。潜入工作員(モール)の類からのタレコミで、基地の内部構造を把握していることも考えられた。そうなると、彼らはそもそもセレネが拘束されている場所がわかったうえで潜入しているはずだ。つまりセレネは連中が目指しているあの建物内にいる。それさえわかれば、もう彼らは用済みだった。  俺は迷うことなく、ショルダーホルスターからスピードシックスを取り出し、連中の一人に向けて構えた。ヘルメットを装備しているから、頭を狙っても弾かれるだけだろう。だけど別に殺す必要はない。俺は逡巡する間もなく引き金に指をかけ、その一人に向けて発砲した。  発砲音が響き渡り、俺が撃ち込んだ弾を頭に食らった男がよろめく。銃声で連中がこちらの存在に気付いたのか、素早く撃たれた男をかばいながら制圧射撃を行ってくる。連中も見つかる覚悟はできていたのだろう。躊躇することなくこちらへ発砲を行ってきた。俺は被弾しないように地面に伏せると、大声で叫んだ。 「侵入者だ。十人いるぞ」 そもそも銃声が響いていたのもあって、兵舎に明かりが灯った。それと同時に基地内にサイレンが響き渡り、侵入者の襲来を知らせ始める。 マガジン内の銃弾をひとしきり撃ち切ったのか、制圧射撃が止んだ。死んだと思われたのか、その後継続して弾を撃ち込まれることはない。しかし流石日頃有事の訓練を受けている自衛隊だけあって、素早く正面玄関から武装した自衛隊員が飛び出してきた。彼らはすぐに侵入者を発見したようで、何事かを叫びながら隊列を組み始める。 もう逃げられないと悟ったのか、侵入者側の部隊が、建物に身を隠しながら戦闘を開始した。サイレンが鳴り響く中、銃声と怒号とが夜を駆け抜けていく。もうここは、戦場だ。人の生命が一瞬で失われる場所。自衛隊側の一人が被弾したのか、頭を押さえてもんどりうつ。それを見た仲間が、義憤に駆られたのかアサルトライフルを連射で打ち込んでいく。まさに地獄の様相であった。 俺はそれを見つつ、自分がこの事態を引き起こした張本人であると理解していた。自分の手を汚さず、あの外国人部隊を撃破する。これが一番手っ取り早い方法だ。でも、きっと俺は地獄に落ちるだろうなという確信が胸を埋めていた。だけど、ここで立ち止まるわけにはいかない。俺はいつでも発砲できるようにスピードシックスを手に握りながら、彼らが目指していた建物の裏側に回り込んでいく。連中は戦闘に集中していて、こちらに気が付くような様子はない。奴らに勘付かれるまえに、建物に潜入するが吉だ。俺は目標の建物の裏手に回り込むと、大きめの窓を見繕ってそれに向かって発砲した。一発の銃弾で窓は呆気なく崩れ落ちる。発砲したとしても、戦闘の音で位置が悟られるようなこともない。俺は割れた窓を叩いて割れたガラスを窓枠から落とすと、建物の内部に侵入した。
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