5人が本棚に入れています
本棚に追加
建物はどうやら何かの研究施設のようだった。この前訪れた人類進化研究所の内部とよく似ている。恐らくここが技術研究本部なのだろう。セレネはどこだ。早いとこ見つけ出さないと連中と鉢合わせることになる。早急な奪還が求められた。
そこで、どたばたと上の階から人が下りてくる音が聞こえた。外の銃声を聞きつけてこの場から逃げようと思ったのか。とにかくちょうどいい。俺は即座に発砲できるようにスピードシックスに意識を向けながら、足音の方へ向かう。今侵入した研究室を抜けると、廊下の先に階段が見えた。俺はその手前の踊り場に身を隠すと、足音が近づいてくるのを待つ。殆ど待機するまでもなく、右隣の階段から物音が聞こえた。足音的に二人だ。一人を制圧してもう片方をホールド・アップしよう。すぐさま、男二人が階段を下りて恐らく入り口の方へ向かっていく。俺はその後ろから忍び寄ると、後ろ側にいた男の頭部をスピードシックスで殴りつけた。戦闘継続補助スーツがその動作を感知したのか、腕に癒着している人工筋肉が膨張する。後頭部にスーツで威力の増した鈍器の打撃を受けた男は、そのまま失神したようで、その場に崩れ落ちた。その異音を察知したであろう前の男が振り返る前に、彼の背中にスピードシックスを突きつける。
「動いたり叫んだりしたら殺す。ここに運び込まれた女の居場所はどこだ」
男はホールド・アップされたことを瞬時に理解したのか、怯えるように両腕を持ち上げ抵抗の意思がないことをこちらに示した。
「――ち、地下の隔離室だ」
「そこへは特殊な道具なしに辿り着けるか」
「あ、IDカードがいる。隔離室はカードを持っていない者は入れない」
「お前がそのカードを持っているのか」
「も、持っていない。本当だ。信じてくれ」
俺は男の白衣のポケットを改めた。ペンやらメモ帳、紙切れ、それに――
「やはり持ってるじゃないか」
俺はポケットからIDカードらしきものを発見した。男があからさまに焦りだす。
「そ、それは違う。もっと別のやつだ」
俺は男の声色から嘘を吐いていることを悟った。自然とスピードシックスを握る手に力がこもる。男はそれを察したのか、泣き言を言い始めた。
「う、撃たないでくれ、頼む。仕方なかったんだよ。あれを渡すわけには」
「それはどうも」
これ以上こいつの話を聞く必要はなかったから、俺は命乞いをする男の側頭部をスピードシックスで殴りつけた。先ほどの男同様、スーツで強化された威力に耐えられずはずもなく、男は一瞬で気を失う。少し加減しないと、もしかしたら殺してしまうかもしれない。今後は少し力を抜こう。
そう思った時、上階の方からいくつもの足音が聞こえた。音の重量的に、武装している可能性が高そうだ。この施設に常駐している警備だろうか。ここで遭遇すれば即座に戦闘になってしまうので、俺はそそくさと地下への階段を探すことにした。先ほど倒した二人が下りてきた階段は、どうやら地下までは繋がっていないようだ。施設の警備上の観点から、すぐに目標物に辿り着けないような構造になっているのだろう。とにかく別の階段を探す必要があった。
最初のコメントを投稿しよう!