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保健室の扉を開けると、中には誰もおらず、仕切りカーテンの閉まっているベッドがひとつあった。
「圭一?」
声を掛けると、すぐに圭一の声で返事がある。カーテンの隙間から覗くと、ベッドの端に座った圭一がこちらを見た。
「旭」
「お前、寝てないのかよ」
二人分の鞄をベッドの上に置くと、圭一が手を伸ばしてくる。意図が分からないまま手を差し出すと、ぐいっと引かれて抱きつかれた。
「旭ー……しんどいー」
「そりゃそうだろ」
とりあえず頭を撫でる。
「送ってってやるから、帰ろ」
「寝てしまいそうだから帰りたくない」
「ばか。寝ろって」
頭を起こした圭一の顔は、目の下に隈ができていて、明らかに憔悴している。
「……こんなに」
言いかけて口をつぐむ。圭一の目は半分閉じていて、今にも眠りそうに見えた。旭は背中に回った圭一の両腕を掴んで、そのまま引っ張った。
「ほら。立って。歩ける?」
「んー」
床に足をついた圭一から手を離し、旭は鞄を二つ手に取ったが、すぐに横から圭一の手が伸びてきて、そのまま自分の鞄を取り上げる。
「大丈夫かよ」
「ばか。眠いだけだっての」
多少眠気が晴れたのか、少ししっかりした口調で圭一がそう言う。
そのまま、二人は帰路に着いた。
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