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毎日毎日、嫌になるほど繰り返し上っては下りる急な坂道を、黒崎旭は今朝も上っていた。
梅雨もそろそろ明けて、夏本番の到来を感じさせる日差しの中、歩いているだけで自然と汗が流れ落ちる。通学路だから仕方がないが、あと一年半以上も上り続けないといけないのかと考えると今からげんなりする。
何でも、資源の乏しいこの島国では、人材を育てることこそが重要な国策だという考えから、学校を造る際には水害の心配のない高台を選ぶことが多かったらしい。嘘か本当かは知らない。ただ、その話を聞いた時に「余計なことを」と思ったから何となく覚えているだけだ。
心持ち体を前倒しにしながら一歩一歩踏みしめるように坂を上っていた旭は、ふと見上げた先に圭一の姿を見つけた。柏崎と並んで、何かを喋りながら歩いている。最近よく目にする光景だった。
――やっぱ仲いいんだな。
昨日耳にしたばかりの噂が、頭をよぎる。
同じ小学校だった原圭一とはもともと友達だったが、中学では三年間ずっと同じクラスで、自然と仲良くなった。更に高校に入って一年の時も同じクラスだったため、去年はしょっちゅう一緒にいた。二年になるとクラスが分かれたが、今でもたまに昼食を一緒に取ったり、遊んだりするのは続いている。親友と言ってもいいかもしれない。
一方の柏崎については、その存在は知っているが、一度も話したことはない。圭一と同じクラスで、最近は一緒にいるところをよく見るから、今年に入って仲良くなったのだろう。
柏崎については、ある噂があった。
「――あいつらって付き合ってんのかな?」
昨日、クラスメイトとの何気ない雑談の中で圭一の名前を耳にした旭は、一瞬動きを止めた。
「柏崎だもんな」
「最近よく一緒に動いてね?」
「原かー。なーんか意外」
ここに同じ中学出身のやつはいない。旭はなるべくさりげなく、否定の言葉を投げた。
「いやー、あいつは多分違うと思うけど」
「あ、黒崎、原と同中だっけ?」
「そう。ついでに去年も同クラだったけど、そっち系じゃないと思う」
「まあ、確かにそんな感じだよな、見た感じも」
「柏崎はともかく、原はなー」
「だよなあ」
旭の緊張に気付かず、クラスメイト達はあっさりと旭の言を受け入れた。そのまま別の話題へと移り、何となくほっとする。とりあえず否定したものの、旭も、そんなことを圭一に確かめたことなどなかった。
どちらかと言えばおとなしくて目立つのが好きではない旭とは正反対に、圭一は体も大きく活発で、中学の時からクラスでも目立っていた。押しは強いが裏表のないさっぱりとした性格で、人望もあり、中学三年生の時には野球部のキャプテンも任されていた。旭の目から見ても外見も性格も男らしいと思う。男女問わず友達も多かったが、男友達との付き合い方に違和感を覚えたこともない。
柏崎の方とは、旭は特に付き合いはない。ただ、柏崎はその極めて整った顔立ちと人を寄せ付けない雰囲気から、学年内でも何となく名前の知られた存在で、旭も一年の時から彼のことを認識はしていた。まさか圭一と仲良くなるとは思っていなかったが。
そして柏崎のその顔立ちと雰囲気は、彼にまつわるある噂に妙なリアリティを与えてしまってもいた。――ゲイであるらしい、ということ。
その恵まれたルックスの割には彼女もいない。そう言われると、そうなのかも、と思ってしまう何かが柏崎にはあった。
まあでも、圭一が仲良くしているのだから嫌なやつではないのだろう。
旭が柏崎について思うことは、今のところその程度だった。それ以上のことは、直接確かめでもしない限り鵜呑みにするつもりはなかった。
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