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2.屋上にて
昼休み、約束どおり旭が弁当持参で屋上に座っていると、少し遅れて来た圭一の横には、何故か柏崎の姿もあった。
「ほら、連れてきてやったぞ」
「え、あ……ども」
にやりと笑う圭一と、目を合わさないまま軽く会釈する柏崎。二人とも円を描くように旭の向かいに座る。
「……」
がさがさと音がして、ふと柏崎の手元を見ると、甘そうなパンを取り出して開けるところだった。無意識に、「あ、パン」と声に出すと、顔を上げた柏崎と初めて目が合った。近くで真正面から顔を見たのはおそらく初めてだが、噂どおり、いやそれ以上に、一瞬視線を吸い付けられるような造形に思わずはっとする。陽光の下で見ると、その瞳はひときわ色素が薄く、その肌はいっそう白く見えた。
「――何?」
「いや、何でもない。ごめん」
咄嗟に謝ってしまう。
「お前が会いたがってるって言ったら、購買で買ってきてくれたんだよ」
「え、まじで」
「別にそのためだけじゃないけど」
「あ……そう?」
「お前ら二人とも照れんなって」
どうも会話がぎこちない。間を埋めるために、旭はとりあえず弁当箱を開け、せっせと中身を口に運ぶことにした。食べている間は話さなくて済む。
「黒崎のやつ、朝からずっと、俺らの邪魔してんじゃないかって気にしてんだよ」
一人機嫌の良さそうな圭一が、柏崎に的はずれな説明をしている。そして意外にも柏崎はその言葉に素直に耳を傾けている。だから気にしてないって言ってんのに。
「お前からも別にそんなんじゃないって言ってやって」
「うん。別にそんなんじゃないから」
柏崎は無表情に旭に向き直り、そのままリピートする。
「いや、だから気にしてないし」
「人見知りでもないし、避けてもないよな」
「ちょ、圭一」
「何のこと?」
「お前のこと、黒崎がさ」
余計なこと言うな。慌てて止めようとするが、圭一はそのままの流れで別の話題を柏崎に話し始め、旭は口を挟むタイミングを失った。まあ、話が逸れたのならいいか。
二言三言二人で言葉を交わしているのを横から眺めていると、不意に柏崎が旭の方に向き直った。
「あ、そうだ。黒崎くん」
「ん?」
「今、彼女いる?」
「え?」
「は?」
唐突な言葉に、旭と圭一は同時に声を上げる。
「おま、何」
「いや、いないけど」
「え?」
柏崎を見ていた圭一が、ぐりんとこちらに顔を向ける。
「何、お前、彼女は」
「だよね。別れたって聞いた、島田さんと」
「あ、うん」
「え? いつの話だよ」
「あれ、言ってなかったっけ。春休みくらいに」
「はあ?」
「こいつが、黒崎くんには彼女がいるんだって言い張るからさ」
パンをひとつ食べ終えた柏崎が、ごみを袋に突っ込んでから別のパンを取り出す。圭一は箸を動かすのも忘れたように旭を見ている。
「ああ、そっか、ごめん。もうとっくに別れた」
「まじか」
「うん」
去年の12月に、旭はある女子に告白された。クラスも別なら今まで話したこともない、ほぼ初対面のその女子とそのまま付き合うことにしたのは、大部分が高校生男子らしい興味と下心からだったが、何回か遊んだりした後、向こうが急速に冷めたらしく、気付けば自然消滅していた。
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