1本のマリーゴールド

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1本のマリーゴールド

雨は容赦なく降り続けて私を濡らして行く。 突然の雨。 きっと通り雨なんだろう。 その辺のコンビニでビニール傘でも買えばいいん だろうけれど、今の私にはそんな気力はない。 むしろ、このままの方がいいと思った。 バケツをひっくり返した…と言うほどじゃない。 しとしとと、まるで空が泣いているみたいな雨。 そんな風に感じてしまう私はちょっとセンチ メンタル過ぎるだろうか。 雨の匂い。 雨の音。 そのどれもが今の私にはぼんやりとして、現実味を 帯びない。 いっそ全部夢だったらよかったのに。 お気に入りのヒールはじんわりと滲み、買った ばかりのスプリングコートも肩がしっとり滲み 始める。 いつもだったら気になるはずのことも、もう どうでもよかった。 帰ったら捨ててしまうだろう。 ツーッと雫が頬を滑り落ちた。 でもこれは雨じゃない。 『ごめん………別れてくれ。』 ───今さっき彼に告げられた一言が頭の中に木霊 する。 その一言は私を一気にどん底へと突き落とした。
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