マリーゴールドの花束

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「光君はずっと前から私を見ててくれたんだね。」 「………。」 「手紙には格好いいなんて書いてあったけど、あの頃の私はただがむしゃらに仕事してただけなの。 前を向いてたと言うより、前しか見えてなかった だけ。」   「………。」 “憧れ”なんて言ってもらうほどのことじゃない。 あの頃の私には何も見えていなかったんだ。 だから気づけなかった。 あんなに素敵な花屋があることも、私のことを見て いてくれる人が居たことも。 「私が本当に前を向けたのはね、あの日マリー ゴールドを光君がくれたからだよ。」 「………。」 「光君が居てくれたからなんだよ。」 「っ………。」 微かな息遣いが聞こえる。 伝わったかな? 私がどれだけ光君に救われたか。 でもまだ伝えたいことがあるんだ。 たぶんこれが今一番伝えたいこと。 「あのね、私…光君のことが好き。」 「………っ。」 「大好きなの。」 言葉にしたら簡単で、でもこの答えに行き着くまで ひどく時間がかかってしまった。 時間を下さいなんて、ちゃんと考えるなんて言って しまったけど…本当は考えなくたって分かること だったんだ。 私は───光君のことが好き。
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