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マンションの前に着くと彼はふっと立ち止まる。
それに合わせて足を止め、顔を見上げた。
「ふふ。」
「………。」
思わず笑ってしまう。
だって“寂しい”って顔に書いてあるんじゃない
かってくらい、寂しそうな顔をしていたから。
でもきっと私も今そんな顔をしているんだろうな。
別れ難くてさよならをなかなか切り出せない。
何だか子供みたいだ。
「光君?」
「………。」
繋いだ手をお互い離せずにいたら、ふいに彼が指を
絡めてきた。
まるで私の手のカタチを丁寧に確かめるみたいに。
恥ずかしくて、くすぐったくて、でも…嫌じゃ
ない。
一通り指でなぞったのか、大きな手が名残惜しそうに離れて行く。
そろそろ本当にさよならをしないといけない。
「またね。」
「………。」
そっと長身の彼が屈む。
視線が同じ高さになって、私達は静かに見つめ
合った。
そこに言葉はなかったけど伝わるものが確かに
ある。
どちらともなく目を閉じて、吸い寄せられるように
キスをした。
優しい優しいキスを。
きっと私はすぐに光君に会いたくなってしまって
明日また花屋に行くことになるんだろうなって
思った。
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