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「出来ました!」
何度も試行錯誤して、やっと完成したそれを清子
さんに掲げて見せるとあの穏やかな笑顔で答えて
くれた。
「上出来ですよ。頑張りましたね。」
「清子さんのお陰です。」
チラリと時計を確認すると、思ったよりも時間が
経っていたことに気付く。
もうすぐ光君が帰って来る時間だ。
ソワソワし始めた私を見て、清子さんはクスリと
笑った。
待ち切れなくて店の前まで出た私は、ふと思う。
きっと光君のお母さんもこんな気持ちだったん
だろうなって。
それを考えたら少し切なくなった。
光君と出会ってから一年。
大学に通うようにはなったけど、まだ話そうとは
しない。
傷が癒えるにはどれくらいの時間がかかるのか私
には分からないけど、ずっと側に居るって決めた
から。
その時、少し先に光君の姿が見えて思わず手を
振ってしまった。
「光君。」
「………っ。」
声をかけると彼は驚いたようにこちらを見る。
それはそうだろう。
だって本当ならこの時間は仕事をしているはず
だから。
そのまま彼の元へ駆け寄った私は手の中のそれを
そっと差し出した。
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