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暫くの間、彼は私の手を握ったまま俯いていた。
いつもと様子の違う彼に戸惑いはしたけど、目の前で事故にあってしまったんだから当然の反応なん
だろう。
それにしては少し過剰な気もしたけれど。
その大きな手は温かくて、心地よい。
ふいに眠気が訪れて私また意識を手放した。
きっと光君が側に居てくれるから、安心して
しまったんだろう。
───でも、次に目を覚ました時にはもう病室に彼の姿はなかった。
「あ…」
ゆっくりと身体を起こして、もう一度病室を見
渡す。
どれくらい眠っていたんだろう。
まだ暗いから、そんなに長い時間眠っていたわけじゃないらしい。
目が覚めて、彼の姿がなくて寂しいなんて思って
しまって情けなくなった。
店のこともあるだろうし、面会時間もあるはず
だからいつまでもここに居てもらえるはずはない。
自分で思っているよりもずっと、私は光君に支え
られているんだ。
ふっと窓の外を覗こうとして気付く。
花が飾ってあることに。
無機質な病室にその花はやけに目立って見えた。
「シオンかな。」
私の記憶が正しければその花はきっとシオン。
こんなことをしてくれるのは一人しか居ない。
今度会った時にお礼を言わなくちゃと…そう
思った。
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