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「いいえ、そんな。勝手に体が動いただけなので。」
「本当に、ありがとうございました。」
いつもと違って神妙な面持ちの清子さんに戸惑って
しまう。
「逆に心配をかけちゃったみたいで…」
私がそう話すと、ふっと顔を上げた。
じっとこちらを見つめた後、何か考えるように目を
伏せる。
その沈黙の時間がとても長く感じられた。
「あの子…取り乱していませんでしたか?」
そう聞かれて私が目を覚ました時の光君を思い
出す。
確かにカタカタと震えて、まるで何かに怯えている
ようで。
とても取り乱しているようだったけれど。
「あ、はい。目の前で事故にあってしまったから
驚いたんでしょうね。」
清子さんは軽く息をついた。
まるで私の答えが分かっていたような、そんな
反応。
また暫く何か考えているようだったけど、ふいに
清子さんは口を開いた。
「何故光が話さなくなってしまったのか、聞いて
頂けますか?」
「え…」
「葉月さんには聞いてもらいたいんです。」
ドクドクと心臓の音が煩い。
聞いてしまっていいんだろうか。
そんな大事なことを私が。
ずっと気になっていた。
何で光君は話さなくなったんだろうって。
気持ちを決めた私は───
「はい。」
と、答えた。
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