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ハッと息を飲んだ。
それはあまりに残酷な事実だった。
“誕生日を教えて”って言った時の切なげに揺れた瞳。
“一緒にお祝いしよう”って言った時の泣きそうな
笑顔。
そして、目を覚ました私の手を握って何かに怯える
ように震えていた姿。
その全てが繋がった───。
「姉は昔っからそそっかしいところがあったんです
けどね。まさかあんなことになるなんて。早く…
あの子にプレゼントを渡したかったんでしょうね。」
清子さんは懐かしむように微笑む。
私は何も言えなかった。
光君と清子さんの気持ちを考えたら、軽々しく言葉をかけることが出来ない。
ふっと一息ついた清子さんは言う。
「それ以来光は話さなくなりました。大学も辞めて
私以外の人と関わることもしなくなりました。
きっとあの子は今でも責めているんです。自分が
あの時声をかけなければって。」
「…そうだったんですね。」
だから“話せない”んじゃなくて“話さない”。
光君は話すことをやめてしまったんだ。
悲しい思い出なんてものじゃない。
それはとても大きな心の傷だった。
今もまだ癒えない傷。
簡単には癒えない傷。
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