シオン

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「あのっ……光君は……」 「これが今朝置いてありました。」 そう言ってエプロンから取り出したのは一通の 手紙。 そこには小さな文字で“葉月さんへ”と書いてある。 光君からの初めての手紙。 私はそれを受け取るとすぐに読み始めた。 そこには今まで知らなかったことが書いてある。 『僕が葉月さんを初めて見たのはもう一年以上前の ことです。』 ───と。 『ちょうど店を閉めようとしてた時、仕事帰りの 葉月さんを見た。 きっと仕事で疲れているはずなのに、葉月さんは 背筋を伸ばして真っ直ぐ前だけを見て歩いてて それがすごく格好よくて、僕は思わず見惚れてた。』 そんなこと、全然知らなかった。 だってその頃の私は本当に仕事人間で、この花屋に すら興味がなかったから。 『それから毎日、店を閉める時に葉月さんの姿を 見るのが習慣になってた。 葉月さんは知らないと思うけど、ずっと憧れて たんだ。 僕もあんな風に前を向けるようになりたいって。』 そこには確かに“憧れ”と書いてある。 誕生日にもらった向日葵の花言葉を思い出す。 『だからあの雨の日、どうしても放っておけ なかった。 あの日マリーゴールドをあげたのは、葉月さんに また前を向いて欲しかったから。 そしたら僕も   』 …手紙はそこで途切れていた。
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